怒りにまかせ男は妖刀を振り上げる。
男の目にはもはや俺を討つことしか見えていないようだった。

いくら妖刀といっても妖にとって避けるのは造作もないこと。
人間が妖を捕らえるのはそれだけ難しいものなのだ。

──が……

男の動作に気を付けつつも、俺は後ろをチラッと見つめる。

(今、俺の後ろには桜がいる。もし俺が避けたら──)

「時雨──!! 椿様の無念、晴らさせてもらうぞぉ!」

男は妖刀を持つ手に力を込め、俺の方へ突進してくる。
それを合図に他の下僕達が彼の後に続く。

こちらへ向かってくる者、母の無惨な亡骸を目にしてしまった桜、そして俺の目の前で死に絶えている……椿。
そんな光景を目の前にして俺は力の抜けた笑みを椿に向けた。

……あぁ──椿がいないのなら……この世にもういる意味はないなぁ。

このまま捕まってしまうのも酔狂か


“妖は人など本気で愛せぬ輩なのだ”


違う……俺は本当に椿を愛していた。

俺は決して椿を殺してなんかいない。


──……じゃあ…椿を殺したのは誰だ

その時、
男が振りかぶる妖刀は容赦なく俺め掛け切りつけるのだった──