「時雨! お前っ、よくも椿様を!」

(……な、に言っている。
おれ、が……つばきの、心の臓を………食ったと、でも?)

男の一声で一歩下がっていた下僕の一人がある “妖刀” を素早くその男に手渡した。

「今の刀では妖はどうやっても死なないんだったよなぁ、時雨。
切っても刺しても撃っても死なぬ……なら、悪妖(あくよう)はどうやって捕らえるのか──もちろんお前もこの妖刀のことは知っているな?」

あぁ、知っているさ。

昔一時だけ、妖を殺せる唯一の妖刀がこの世に存在したという。
しかし、いつからかその妖刀は行方知れずとなり陰陽師は妖を退治することができなくなってしまった。

そこで、その強力な妖刀に代わる刀が急遽造られ現代までこの七楽に受け継がれている。
ただその妖刀は以前の強力な妖術を込めた妖刀よりも威力は弱かった。

あの男が持っているのは 第二の妖刀“凍刀(とうとう)”と言う名の刀──あれで切られて人は死ぬが妖は死ぬことがない。
ではなぜその刀が妖刀と言われる所以なのか。

それは、切られた箇所から妖が一瞬で凍りついてしまうからなのだ。
体が凍るということは感情も思考も記憶も何もかもそこで刻が止まってしまうと言うこと──何十年、何百年、何千年……特別な地下凍庫で永遠に眠り続ける。

「時雨。お前は人の心の臓を喰った、いくら七楽一族と契約する妖とてこれは大罪だ!
この妖刀で永遠に凍り続け悪妖として永劫までさらけ出すといいっ!」

「──違う……俺は、俺は椿を喰ったりなんかしていない!」

「今更何を言う! お前が人間になりたいということはここの誰もが知っていた。
それなのに椿様の臓を喰ってもお前は今だ妖のまま……結局、いつになっても妖は人など本気で愛せぬ輩なのだ。妖のままのその姿こそ、椿様のことを想うふりをしていただけで本当は愛してもいなかったという証ではないか!」