気づくと自分の両手と口元は真っ赤な血で染まり小刻みに手が震えている。

──頭が、体が動くことを拒否している……一体、何が起きたというのだ?

ただただ耳に流れ込んでくるのは、近くで聞こえる叫び声とこちらに向かってくる大勢の足音。

「さぁ、桜様! 危のうございます! 今すぐここを離れてください!」

──さく、ら……?

確かに聞こえた椿の娘……桜の名。

振り返るとそこには真っ青な顔で呆然と立ち尽くす桜の姿があった。

「…ぉ、かぁさ……ま」

「桜?」

桜の視線の先には俺なんか映っていなかった。もっと先……俺の背後へと桜の視線を辿っていく。

「──つ、つば……き?」

俺の目の前には心の臓をえぐられ月夜に照らされ続けている──無惨な姿の椿が横たわっていた。
真っ赤な着物でも着ているのかと勘違いしてしまうほど──恐ろしい光景が脳裏に焼き付いていく。

──……な、なんで、椿が……

それでも尚、美しい椿の顔はどこか誇らしげに笑っているようにも見えた。
俺は自分の両手を見てゾッとする。

──()()()()()()()()()


漠然とその言葉が脳裏をかすめた時──

遠くに聞こえていた大勢の足音がいつの間にやら部屋の前で止まり、その中にいた一人の男が恐ろしい形相で誰よりも率先して部屋に入ってきた。