「ごめん…無責任なことを言ったね」
しばらく二人の間には沈黙が続いた。
(私だって時雨が同じ人間ならどんなに嬉しいか…時雨と二人で命尽きるまで添い遂げたい。
……でもそれ以前に私の命は残り僅か)
今日は満月。
おかげで暗くなった部屋全体に月の光が射し込み、時雨の美しい顔がよく見える。
その横顔に見惚れながら私は心の中で一つの区切りをつけ、もう一度時雨に進言した。
「桜はね…あなたのことが大好きなのよ。体が動かない私の代わりに、時雨は桜に色々なことを教えてくれた。──遊びも笑顔も優しさも…そして強さも。
桜はね、きっと私の命が尽きようとしていることはわかってる。ただそれが少し早くなるだけ。
だから時雨、これはお願いなの…… 妖ではなく人間となって私の代わりに桜を……七楽をずっと見守って」
自分の正直な気持ちを伝えた私は、一呼吸おいて静かに目を瞑る。
そして愛する一人娘・桜の姿を思い起こしていた。
そのような覚悟を持った私の姿を時雨はジッと見つめ、気崩れた着物を直そうともせず力が抜けたかのようにその場でペタンと座り込む。
「……椿」
「お願い時雨。私の心臓を──」
──長年続いたこの呪縛から……私達を解き放って…────
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───…………「──れか…きて……」
「…誰か、誰か来て──!! つ、椿様が」
その、けたたましい叫び声で俺は我に帰った。