私が寝ている十畳ほどの和室にその音は響き渡り、それと共に畳と着物の擦れる音が徐々に近づいてくる。
私はつい口元がゆるみ頬がピンク色へと色づきだす。
そして音が鳴り止んだ時、目線だけを横に移すとそこには例えようのない妖しい男性が私を見つめていた。
夕陽によって橙色に光輝くサラサラとした長い銀髪、妖艶で涼しげな目元。
華奢に見えるが凛として立つ姿は見惚れてしまうほどとても美しかった。
(……時雨)
着ている白い着物は今にでも着崩れしてしまうほどに一本の帯ヒモで緩く結ばれているだけ。
はだけた着物からは外では計り知れない筋肉質な胸板が露になって見える。
「時雨、久しぶりね。今日はどんな話をしてくれるの? 時雨の話は真に面白いからね」
そう。時雨の話は外の世界がわからない私にとって、とても胸踊らされることばかり。
「そんなことより椿。
お前…顔色が悪い。…呼吸も乱れているぞ。…お前は死んでしまうのか?…椿も俺を残して逝ってしまうのか?」
微笑みかけた私とは反対に、時雨は淡々とした冷たい声で私に問いかけてきた。
人ならざる者の瞳は青く澄み切っている。
そんな瞳で見つめられたら誰でも心を吸いとられてしまいそうになる。