「お、おい、何やってるんだっ!
不知火がこのまま広がったらここにいる全ての悪妖らが溶けて生き返っちまうんだぞ!
い、いや……も、もう金はいい…お、俺はに、逃げるからな!」

男の一人が松明を投げ捨て、慌てて来た道を引き返そうとする。
しかし、これから起こるだろう恐怖とその鳥籠の中にいる自分達を想像しただけで身体が強張り上手く走れない。

「……ま、まってくれよぉ! お、俺を置いてかないでくれよぉ〜!!」

「うぅ、うるさい…そ、外に、早くここから離れないと、恐ろしい悪妖らに俺達は──」


〝だぁれがあくようだってぇー?〟


「ひゃ、ひゃあぁぁぁッー!」

もつれた足をどうにか立ち上がらせ、ここから一気に出口まで……と思った矢先、突如耳に届いた気味の悪い声。
そして瞬く間に男達の目の前に立ちはだかる大きな壁──いや、ゴクリと生唾を飲み込み震えながらも全体を見上げるとそれは巨大な蜘蛛の形をした異形の妖。

大きく膨れ上がった腹の両脇からは各々四本ずつの脚が出ており、身体はまさしく巨大な蜘蛛……しかし顔は口から長い牙の生えた人間の形をしている。

男達はその恐ろしい異形の妖を前に身体が全く動けなくなっていた。反対に後ろへ後ろへと後退りする始末。

〝── あー…ここはどこだぁー? いやいやそんなことより、はらへったなぁー〟

蜘蛛男は腹をボリボリと掻きむしりながらクンクンと鼻を利かせる。

「……に、にに逃げ……は、はははやく」

男達はあまりにも恐ろしい形相の妖らにとうとう腰を抜かし、逃げたくてもその場から逃げられなくなっていた。
そして何やらモゾモゾと動く男達に気が付いた蜘蛛男はニヤ〜と不気味に笑うと口からボタボタとヨダレを溢し出す。

〝なんかうまそうなにんげんがいるなぁ〜〟

〝おぉ〜ひさかたぶりのにんげんだ〜〟

気付くと男達の周りにはいつの間にかこの蜘蛛男とはまた別の悪妖らが集まり出していた。

「た、たたた助けて、くっ─────」

その言葉を最後に一斉に手を伸ばし直ぐ様男達を取り合う妖たち。
瞬く間に男達の身体は引き裂かれ妖らの腹の中へと収まってしまったのだ。