妖しく人ならざる者と対峙する異能を持つ陰陽師一族 ──七楽。
ある妖と特別な契約を結び、その関係を持続させることで異能の力が維持・発揮され、次の世代へと受け継がれていく。
── 寛政九年 十月 ──
障子と障子の隙間から射す光は時間を経ていくに連れ夕焼色へと染まりだす。
そこから漂ってくるすきま風は、夏から秋の香りへと変化しようとしていた。
(この場所で春夏秋冬を感覚だけで捉えるのは何年目だろうか……)
そんなことを思いながらゆっくりと目を閉じ、私は小さな溜め息を吐いた。
(──けど……着実に終いの刻は近づいている…か)
病気で体が動かなくなって数年、ずっと古ぼけた天井だけを見ている。
そんな私にとって、布団から出ている感覚だけが風を感じ暑さや寒さを感じ匂いを感じ、そして今起きている情報の全てを耳で感じ取っていた。
目を閉じ神経を研ぎ澄ますと様々な音が私の耳元へ届いてくる。
誰かの悪口、子供のはしゃぐ声、人の息づかい……そして私の愛する音。
"シャリンッシャリンッ…"
突如、水琴鈴の音が鳴り響く。
この音が鳴る時は時雨が来る合図。
ずっと聞いていたくなるような、とても…心地の良い鈴の音だ。