“消失性夢中記憶欠損症”。
初めてその病気を知った時は、すごく驚いた。
大切なものを失うことによって、その記憶が夢の中でしか再生されず、現実にその記憶は残らない。
そんな病気がどうやって分かるものかと思ったけれど、私がその病気だと分かった理由は結構、分かりやすかった。
単純に、寝言でその子の名前をはっきり呼んでいるからだ。

私は高校生になった今でも、その子との記憶を思い出せない。
けれど毎朝、枕が涙で濡れているぐらいだから、きっと、夢の中では思い出すことが出来ているのだろう。
そして、私はそれほど、彼を愛していたのだろう。

机に置かれた写真立て。
まだ少し幼い私とその子がうつってる。
満面の笑みでピースサインの私と、ちょっぴり大人っぽいその子が照れたように笑っている。
こんなに幸せそうな記憶を思い出せないのは、少し悔しく思う。

「いつか、ちゃんと思い出せるといいな。この、キラキラした思い出を」



私はベッドに飛び込んだ。


私は、また夢の中でだけ、彼を思い出せるのだろう。そして明日起きた時にはもう、その記憶は無いのかもしれない。
けれど、明日だって、明後日だって、思い出せなかったとしても。

いつかは、彼を思い出せると信じて。




私はこれからも、儚く消えていく大切なものを繋いでいくんだ──────────