窓にたっていた“クロさん”は私の問いに対して、こう答えた。
「......本名は諸事情によって言えない。仮に“クロ”とでも呼べばいい」
“クロさん”は凛とした低い女性の声だった。ていうか、たぶん女性だ。
理由は、膝が見えるスカートをはいているし、髪の毛は腰につくほど長いし、そして何より胸がとてもおっきいからだ。
私は一番の疑問を投げた。
「ク、クロさん。あなたはどうしてここに?」
「アンタの妹の藤井朝姫に“魔法”をかけにきた」
「......は? 魔法、ですか......?」
「ああ。実は藤井朝姫は、blue moonの日に産まれただろう。その日に産まれた子供は十歳まで生きれない。だから私はそれを止めに来た」
え?
自分勝手すぎない?
いきなり入ってきて、お前の妹は十歳まで生きれないーとか言われて。
私は頭に血が上った。
「嘘付け!!!!! 変なこと言うな! 朝姫になんかしたら私が許さん!!!!」
そう吐き散らかすと、“クロ”の表情は一気に冷たくなった。
そして、突然「………へぇ?」と意味深に目を細めた。
でも、その目は朝姫を見ていた。
まさか、この人!!
「ふーん。そーなんだねぇ。別に君は妹がどーなっても、自分が守れるーって、思うんだね。分かった。取り敢えず君、目瞑って?」
「......」
本能的に目を瞑ってしまったが、あのとき瞑らなければーーーー!
そして、五秒後に「もういーよ」と言われて開ける。
特に変わったようすはーーーーーー、
ない?
私が首をかしげていると、“クロ”は怖い瞳から凛とした瞳に変わっていた。
「うん。見た目には影響がない。でも、中身はちゃあんと違うよ。藤井朝姫は、魔法でものを浮かせたり、透明人間になったりできるようになった」
はあ。それだけか。
心配して損したぁ。
ってちがーーーーーーーーーう!!!
私の大事な妹が!朝姫が!!魔法を使って悪さしたらどうすんのよ?!
「悪さはしないよ?ただ、君の妹の魔法で、誰かが傷つく可能性もないとは言えないけど」
それだよーーーーー!!!!
………この人、どこかぬけてるなあ。
するとクロさんは私の方へ来て、もう一回「目、瞑って」と言ってきた。
「また朝姫になんかするの?」
「ううん。しない」
私はとりあえず目を瞑ると、ほっぺたと胸あたりにに柔らかい感触がした。
「?!?!?!?!?!」
もしや………。
ほっぺたに感じたのは唇で、自分の胸あたりで感じたのはクロさんのおっぱい……?!
「~~~~~~クロさんっっっっっ!!!」
私が怒ると(といっても、小さな声で)、クロさんはクスクスと笑って、
「ごめんね?」
と言ってきた。
………子供っぽいな、この人。何歳だ?