〜 三 〜
「・・・・・・皆さん、この度は風花の頼みを聞いてくださりありがとうございました。」
あの事件から数日後、琉斗・玲斗・琴葉の三人はまた小鳥遊家に訪れていた。そこには風花をはじめとする領家の人々や使用人たちが集まっていた。その中から代表して、上段に座る風樹が礼をする。それに合わせて人々が礼をするので、あまり慣れてなかった三人は困惑したように笑って、琉斗が代表して話した。
「皆さん顔をお上げください。僕らは風花の願いを聞いて、その補助をしただけで、全て風花が成し遂げたこと。彼女は立派な英雄であり、立派な剣士です。だから彼女を褒めてあげてください。」
そう言って微笑む琉斗に、兄弟たちは皆頷いて風花の方に視線を向けた。風花は腕を組みながらも照れくさそうにそっぽを向いている。その素直じゃない姿に、玲斗は微笑み、琴葉は優しくその様子を見守る。ほのぼのした雰囲気となったが、不意に兄弟たちの近くに座っていた永峯が少し前に出てきて兄弟たちに話しかけた。
「皆様、今日は頼みがあるのでしょう?そろそろ話してもよろしいのでは?」
「あら、そうだったわ。すっかりほのぼのとしていて、忘れてしまうとこだったわ。」
楓はそう言って困ったように微笑むと、風樹は真剣な表情になり、辰樹は目を細くし、風花が視線と姿勢を正し、翔也が心配げに兄姉と剣士たちを見比べる。三人はそれぞれの顔を見合わせた。あの後に何かがあったのだろうか。少し間をあけてから、ゆっくりと風樹が話し出した。
「皆様方は、これからどうされるおつもりですか?」
その言葉に双子兄弟は顔を見合わせると、同時に琴葉を見た。彼女は静かに頷いて口を開いた。
「・・・・・・特にこれといった用事もないですので、首都に向かうつもりです。」
その言葉に琉斗は納得したようにしみじみと頷いた。
「あ、確かに。まだ俺ら、剣士登録してないんだっけ。」
『神獣剣士となった者は、必ず首都へ赴き剣士登録をすること』、これは神獣剣士になるための大事なことだということを、二人は琴葉から聞いていた。しかし、今回の事件時はまだ二人は登録していないので、もしかしたら失格扱いを受ける可能性もある。玲斗はそのことを懸念しながらも言葉を続けた。
「そうでしたね。どのくらいで出発するの?」
「できれば早く。・・・・・・明日ぐらいでも。」
そう言って首を傾げて考えこんでいる琴葉や、彼女の回答にちょっと悩む双子兄弟たちの話を遮るように、翔也がその中で恐る恐る手を挙げた。
「すみません、その話に割り込むようですが、その、頼みがあるのです。」
それに琉斗の眉がピクリと動いて視線を兄弟たちに向けると、腕を組み直して呟いた。
「そういえば、そんなこと言ってたな。」
「頼みとは何ですか?」
玲斗の言葉に答えたのは、それまでのんびりと話の行方を見ていた辰樹が答えた。
「それがね、うちの風花のことだよ。」
「風花、ですか?・・・・・・もしかして。」
それを聞いて何かに気がついた琴葉に頷くように、辰樹は話を続けた。
「そう、風花を剣士として連れてって欲しいんだよ。」
その言葉に琉斗はゆっくりと視線を細くし、玲斗は視線を逸らして考え込む。琴葉は勘づいていたのか分からない表情で、ゆっくりと話を続けさせた。
次に口を開いたのは、オズオズとしている翔也だ。
「あの後にゆっくりと兄弟同士で考えさせてもらって気づいたんです。僕らは風花姉さん意外に、亡き父の意思を継げる人がいないことを。父の剣を持てる人が、父の力を継いだ者が風花姉さんだと。」
それには三人も頷いて同意はした。風花からは聞いていたことであり、確かに剣は風花を認めているのだ。
でも、それだけで剣士になれるとは限らない。琉斗と玲斗の事は琴葉から直接本部に連絡をしてあるので、何かあった時は直接本部から対応が来るが、風花はそれがない。つまり本部にまだ認めてもらえてないのだ。認められてない人は、果たして剣士と名乗っていいものなのか。剣を振るっていいものなのか。基準が難しい。
「僕らがいいと言っても、本部がどう言うか。」
琉斗がその懸念を伝えると、兄弟たちは困ったように顔を見合わせた。不穏な雰囲気に永峯は心配そうにしている他の使用人たちを下がらせると、悩み顔の兄弟たちを心配げに見つめている。その様子に流石に琉斗も玲斗も困り顔になって顔を見合わせた。しかし、その沈黙を破ったのは、意外にもずっと黙りこくっていた風花だった。
「兄様方、姉様、翔也、もういいよ。私がすぐに剣士になれるとは限らないし、これ以上は琉斗さんと玲斗さんを困らせるだけだよ。・・・・・・だから、この話はこれでおしまい。」
「風花、本当に諦めてしまうの?父上の意志を継ぐのでしょう?」
楓がそう言って思いとどまらせようとしたが、風花は首を縦には振らなかった。再び兄弟内で重い沈黙が流れて、永峯は不安そうに兄弟たちの様子を伺っている。琉斗と玲斗は困り顔のまま一部始終を聞いていたが、ふと誰かが服の裾を引いてきたので同じ方に振り返ると、何か言いたげな琴葉が近くに寄ってきた。
近くに寄ってくれた二人に、珍しく小さな声で耳元に囁かれた内容は驚愕的だったけど、この状況をどうにかするには琴葉の案に賭けてみるしかなかった。頷き合った三人は、困り果ててしまっている兄弟たちに視線を向けた。
「皆さん、ちょっといいでしょうか?」
「いや、こっちこそ無理なお願いをしてすみません。今回の件は諦めますので。」
琉斗が話しかけたが、風樹がそう言って弱々しく笑った。まともに話を聞いてはくれない雰囲気に、琉斗と玲斗は困ったように顔を見合わせる。すると、それまで様子を伺っていた琴葉が重々しく口を開いた。
「・・・・・・すぐに夢を諦めるつもりですか?」
小鳥遊兄弟もその場に居合わせた永峯も、慣れている琉斗と玲斗も、一瞬で凍りついた空気に、突如として鳥肌と震えに襲われた。いつの間にか閉ざされていた琴葉の瞳が、再び開いた時には少女らしくない鋭利な光が差し込んでいた。そして、急な彼女の変化に驚く人々を端から眺めながら、威圧感のある声で捲し立てた。
「・・・・・・なぜ諦めてしまうのですか?まだ、できるかどうか確定してないのに。風花を応援しているはずなのに、なぜそんなことで失望しているのですか?おかしいですよね、本人が諦めたからって数回しか止めないのも。本当は諦めて欲しくて、こんなことをつらつら並べ立てているのですか?」
「琴葉っ⁉︎」
「流石にそれは言い過ぎだよ。」
「琉斗様、玲斗様、少し黙っていてください。」
辛辣な言葉に琉斗と玲斗も困り顔で小鳥遊兄弟の間に割って入るが、鋭い琴葉の視線と言葉を受けて黙り込んだ。彼女は再び兄弟たちを見ると、今度は風花に向けて鋭く言い放った。
「風花、あなたには失望した。なんで諦めちゃうの?せっかくお兄さん達が一生懸命頼み込んでたことを、一度断れたからってすぐ辞めてしまうの?さっきまでの威勢は、一体どこに行ってしまったのかしら。」
「それは・・・・・・」
「お兄さん方もそう。」
口篭った風花をよそに、今度琴葉は小鳥遊兄弟を見る。雰囲気の変わった少女の鋭い視線に、無意識に彼らの背がすっと伸びてもっと空気が冷え切った。
「まず、風樹さん。なんで新領主を務めるあなたが、そんな弱気な態度でいるんですか。そこは強気で行かないと後が持つことはないでしょう。次に楓さん。一度思いとどめられなかっただけで、言うのを諦めてしまうのですか?本当に行かせたいのなら、何度でも説得するべきです。そして、翔也君。君は風花に期待しすぎだよ。君だって立派な領主一家の一人だから、自分でできることをしっかり見出していってほしい。」
兄弟たちは鋭くも明確な意見にそれぞれ頷いていたが、不意に辰樹が非常に不愉快そうな声で言った。
「ねえ、琴葉ちゃん。俺は?」
「辰樹さん、絶対何言ったってあなたは聞き流すでしょう?あなたはまず物事を頼みすぎないようにしましょう。正直、そっちの方が不愉快なんですよ。」
苦虫を噛んだような顔をする辰樹に、不安そうだった滝川兄弟も、表情を曇らせていた永峯も、琴葉の言葉に深く反省していた辰樹以外の小鳥遊兄弟も皆一斉に吹き出した。どんよりしていた部屋の空気は、それで一気に明るくなっていく。辰樹は不満げにそっぽを向いていたが。
あの暗い雰囲気を創り出した琴葉は、何事もなかったように目を閉じていて、再び開くと元の何を考えているか分からない瞳に戻っていた。一通り笑い終えた後、琴葉は静かに琉斗と玲斗に目で合図を送る。
琉斗たちもそれに慣れた様子で頷くと、また小鳥遊兄弟と向き合った。
「さて、風樹さん。そろそろ本題に入ってもいいでしょうか?」
「ああ、もちろん。琴葉ちゃんのおかげで吹っ切れたよ、なんでも話を聞こう。」
琉斗の確認に風樹は先程の弱々しさが消えて、ハッキリとした口調で返すことができた。その返事に頷いた琉斗を見ながら、玲斗が後を継いで言った。
「先程、僕たちで話し合った結果ですけど、どうにかできるかもしれません。ちょっと時間がかかるかもしれないですけど、それでもいいなら早速始めたいんです。」
少し身を寄せ合って会話をし始めた小鳥遊兄弟は、やがて元の座っていた位置に戻ると、代表して風樹が頷いた。それを見た後、ゆっくりと玲斗は計画を説明し始めた。最初はその計画に小鳥遊兄弟も永峯も驚きの連続だったが、聞いていくうちにその内容を深く理解することができた。
「 ———— という感じですが、どうでしょうか?」
一気にまとめて説明した玲斗は、最終確認のように聞いてきた。琉斗はゆっくりと玲斗の息を整えさせて、全員の様子を窺った。琴葉は相変わらず静かで、永峯も静かだったが何度も頷いていた。それは兄弟たちも同様だった。
「それでいいのでしたら、ぜひお願いしたいですわ。」
代表して楓が頷くと、他の兄弟たちも頷いた。それに肯定した琉斗は、静かに座り続ける琴葉に視線を送った。
「・・・・・・承知いたしました。」
一体、彼らは何をするつもりなのだろう。それは、この場にいる彼らしかまだ知らないのだった。
「・・・・・・皆さん、この度は風花の頼みを聞いてくださりありがとうございました。」
あの事件から数日後、琉斗・玲斗・琴葉の三人はまた小鳥遊家に訪れていた。そこには風花をはじめとする領家の人々や使用人たちが集まっていた。その中から代表して、上段に座る風樹が礼をする。それに合わせて人々が礼をするので、あまり慣れてなかった三人は困惑したように笑って、琉斗が代表して話した。
「皆さん顔をお上げください。僕らは風花の願いを聞いて、その補助をしただけで、全て風花が成し遂げたこと。彼女は立派な英雄であり、立派な剣士です。だから彼女を褒めてあげてください。」
そう言って微笑む琉斗に、兄弟たちは皆頷いて風花の方に視線を向けた。風花は腕を組みながらも照れくさそうにそっぽを向いている。その素直じゃない姿に、玲斗は微笑み、琴葉は優しくその様子を見守る。ほのぼのした雰囲気となったが、不意に兄弟たちの近くに座っていた永峯が少し前に出てきて兄弟たちに話しかけた。
「皆様、今日は頼みがあるのでしょう?そろそろ話してもよろしいのでは?」
「あら、そうだったわ。すっかりほのぼのとしていて、忘れてしまうとこだったわ。」
楓はそう言って困ったように微笑むと、風樹は真剣な表情になり、辰樹は目を細くし、風花が視線と姿勢を正し、翔也が心配げに兄姉と剣士たちを見比べる。三人はそれぞれの顔を見合わせた。あの後に何かがあったのだろうか。少し間をあけてから、ゆっくりと風樹が話し出した。
「皆様方は、これからどうされるおつもりですか?」
その言葉に双子兄弟は顔を見合わせると、同時に琴葉を見た。彼女は静かに頷いて口を開いた。
「・・・・・・特にこれといった用事もないですので、首都に向かうつもりです。」
その言葉に琉斗は納得したようにしみじみと頷いた。
「あ、確かに。まだ俺ら、剣士登録してないんだっけ。」
『神獣剣士となった者は、必ず首都へ赴き剣士登録をすること』、これは神獣剣士になるための大事なことだということを、二人は琴葉から聞いていた。しかし、今回の事件時はまだ二人は登録していないので、もしかしたら失格扱いを受ける可能性もある。玲斗はそのことを懸念しながらも言葉を続けた。
「そうでしたね。どのくらいで出発するの?」
「できれば早く。・・・・・・明日ぐらいでも。」
そう言って首を傾げて考えこんでいる琴葉や、彼女の回答にちょっと悩む双子兄弟たちの話を遮るように、翔也がその中で恐る恐る手を挙げた。
「すみません、その話に割り込むようですが、その、頼みがあるのです。」
それに琉斗の眉がピクリと動いて視線を兄弟たちに向けると、腕を組み直して呟いた。
「そういえば、そんなこと言ってたな。」
「頼みとは何ですか?」
玲斗の言葉に答えたのは、それまでのんびりと話の行方を見ていた辰樹が答えた。
「それがね、うちの風花のことだよ。」
「風花、ですか?・・・・・・もしかして。」
それを聞いて何かに気がついた琴葉に頷くように、辰樹は話を続けた。
「そう、風花を剣士として連れてって欲しいんだよ。」
その言葉に琉斗はゆっくりと視線を細くし、玲斗は視線を逸らして考え込む。琴葉は勘づいていたのか分からない表情で、ゆっくりと話を続けさせた。
次に口を開いたのは、オズオズとしている翔也だ。
「あの後にゆっくりと兄弟同士で考えさせてもらって気づいたんです。僕らは風花姉さん意外に、亡き父の意思を継げる人がいないことを。父の剣を持てる人が、父の力を継いだ者が風花姉さんだと。」
それには三人も頷いて同意はした。風花からは聞いていたことであり、確かに剣は風花を認めているのだ。
でも、それだけで剣士になれるとは限らない。琉斗と玲斗の事は琴葉から直接本部に連絡をしてあるので、何かあった時は直接本部から対応が来るが、風花はそれがない。つまり本部にまだ認めてもらえてないのだ。認められてない人は、果たして剣士と名乗っていいものなのか。剣を振るっていいものなのか。基準が難しい。
「僕らがいいと言っても、本部がどう言うか。」
琉斗がその懸念を伝えると、兄弟たちは困ったように顔を見合わせた。不穏な雰囲気に永峯は心配そうにしている他の使用人たちを下がらせると、悩み顔の兄弟たちを心配げに見つめている。その様子に流石に琉斗も玲斗も困り顔になって顔を見合わせた。しかし、その沈黙を破ったのは、意外にもずっと黙りこくっていた風花だった。
「兄様方、姉様、翔也、もういいよ。私がすぐに剣士になれるとは限らないし、これ以上は琉斗さんと玲斗さんを困らせるだけだよ。・・・・・・だから、この話はこれでおしまい。」
「風花、本当に諦めてしまうの?父上の意志を継ぐのでしょう?」
楓がそう言って思いとどまらせようとしたが、風花は首を縦には振らなかった。再び兄弟内で重い沈黙が流れて、永峯は不安そうに兄弟たちの様子を伺っている。琉斗と玲斗は困り顔のまま一部始終を聞いていたが、ふと誰かが服の裾を引いてきたので同じ方に振り返ると、何か言いたげな琴葉が近くに寄ってきた。
近くに寄ってくれた二人に、珍しく小さな声で耳元に囁かれた内容は驚愕的だったけど、この状況をどうにかするには琴葉の案に賭けてみるしかなかった。頷き合った三人は、困り果ててしまっている兄弟たちに視線を向けた。
「皆さん、ちょっといいでしょうか?」
「いや、こっちこそ無理なお願いをしてすみません。今回の件は諦めますので。」
琉斗が話しかけたが、風樹がそう言って弱々しく笑った。まともに話を聞いてはくれない雰囲気に、琉斗と玲斗は困ったように顔を見合わせる。すると、それまで様子を伺っていた琴葉が重々しく口を開いた。
「・・・・・・すぐに夢を諦めるつもりですか?」
小鳥遊兄弟もその場に居合わせた永峯も、慣れている琉斗と玲斗も、一瞬で凍りついた空気に、突如として鳥肌と震えに襲われた。いつの間にか閉ざされていた琴葉の瞳が、再び開いた時には少女らしくない鋭利な光が差し込んでいた。そして、急な彼女の変化に驚く人々を端から眺めながら、威圧感のある声で捲し立てた。
「・・・・・・なぜ諦めてしまうのですか?まだ、できるかどうか確定してないのに。風花を応援しているはずなのに、なぜそんなことで失望しているのですか?おかしいですよね、本人が諦めたからって数回しか止めないのも。本当は諦めて欲しくて、こんなことをつらつら並べ立てているのですか?」
「琴葉っ⁉︎」
「流石にそれは言い過ぎだよ。」
「琉斗様、玲斗様、少し黙っていてください。」
辛辣な言葉に琉斗と玲斗も困り顔で小鳥遊兄弟の間に割って入るが、鋭い琴葉の視線と言葉を受けて黙り込んだ。彼女は再び兄弟たちを見ると、今度は風花に向けて鋭く言い放った。
「風花、あなたには失望した。なんで諦めちゃうの?せっかくお兄さん達が一生懸命頼み込んでたことを、一度断れたからってすぐ辞めてしまうの?さっきまでの威勢は、一体どこに行ってしまったのかしら。」
「それは・・・・・・」
「お兄さん方もそう。」
口篭った風花をよそに、今度琴葉は小鳥遊兄弟を見る。雰囲気の変わった少女の鋭い視線に、無意識に彼らの背がすっと伸びてもっと空気が冷え切った。
「まず、風樹さん。なんで新領主を務めるあなたが、そんな弱気な態度でいるんですか。そこは強気で行かないと後が持つことはないでしょう。次に楓さん。一度思いとどめられなかっただけで、言うのを諦めてしまうのですか?本当に行かせたいのなら、何度でも説得するべきです。そして、翔也君。君は風花に期待しすぎだよ。君だって立派な領主一家の一人だから、自分でできることをしっかり見出していってほしい。」
兄弟たちは鋭くも明確な意見にそれぞれ頷いていたが、不意に辰樹が非常に不愉快そうな声で言った。
「ねえ、琴葉ちゃん。俺は?」
「辰樹さん、絶対何言ったってあなたは聞き流すでしょう?あなたはまず物事を頼みすぎないようにしましょう。正直、そっちの方が不愉快なんですよ。」
苦虫を噛んだような顔をする辰樹に、不安そうだった滝川兄弟も、表情を曇らせていた永峯も、琴葉の言葉に深く反省していた辰樹以外の小鳥遊兄弟も皆一斉に吹き出した。どんよりしていた部屋の空気は、それで一気に明るくなっていく。辰樹は不満げにそっぽを向いていたが。
あの暗い雰囲気を創り出した琴葉は、何事もなかったように目を閉じていて、再び開くと元の何を考えているか分からない瞳に戻っていた。一通り笑い終えた後、琴葉は静かに琉斗と玲斗に目で合図を送る。
琉斗たちもそれに慣れた様子で頷くと、また小鳥遊兄弟と向き合った。
「さて、風樹さん。そろそろ本題に入ってもいいでしょうか?」
「ああ、もちろん。琴葉ちゃんのおかげで吹っ切れたよ、なんでも話を聞こう。」
琉斗の確認に風樹は先程の弱々しさが消えて、ハッキリとした口調で返すことができた。その返事に頷いた琉斗を見ながら、玲斗が後を継いで言った。
「先程、僕たちで話し合った結果ですけど、どうにかできるかもしれません。ちょっと時間がかかるかもしれないですけど、それでもいいなら早速始めたいんです。」
少し身を寄せ合って会話をし始めた小鳥遊兄弟は、やがて元の座っていた位置に戻ると、代表して風樹が頷いた。それを見た後、ゆっくりと玲斗は計画を説明し始めた。最初はその計画に小鳥遊兄弟も永峯も驚きの連続だったが、聞いていくうちにその内容を深く理解することができた。
「 ———— という感じですが、どうでしょうか?」
一気にまとめて説明した玲斗は、最終確認のように聞いてきた。琉斗はゆっくりと玲斗の息を整えさせて、全員の様子を窺った。琴葉は相変わらず静かで、永峯も静かだったが何度も頷いていた。それは兄弟たちも同様だった。
「それでいいのでしたら、ぜひお願いしたいですわ。」
代表して楓が頷くと、他の兄弟たちも頷いた。それに肯定した琉斗は、静かに座り続ける琴葉に視線を送った。
「・・・・・・承知いたしました。」
一体、彼らは何をするつもりなのだろう。それは、この場にいる彼らしかまだ知らないのだった。