田貫さんと狐亮さんの脇腹を突いてから、ちゃんちゃん焼きに手を付ける。ネギがたっぷり入ったお味噌が、鮭に絡まってじわりと旨みを口の中に広がった。
キャベツやネギ、きのこも口に運べば、お味噌の味を吸って美味しくなってる。
ご飯をすかさずかき込んでから、おかわりのために茶碗を持ち上げた。
奥に引っ込んだはずの、キンカさんがすかさず注いでくれる。
「キンカさん、ほんっとうに美味しい」
「今日も上司になんか言われたの?」
キンカさんに報告していた私を横から突くのは、狸寝入りしてた田貫さんだ。いつのまにか、たぬきの姿に戻っている。
「田貫さんも、たぬきになってるよ!」
「酔っ払ってきちゃうと面倒でさぁ。パパに話してごらんよ」
そう誘われて、今日悲しくてここに来た理由を思い出す。仕事でミスをした時に、先輩にチクチク刺されたから、ではあるけど。
もう正直、ご飯のおいしさが胃の奥まで押しやってくれていた。
「ミスしちゃったの! でも明日から取り戻すから大丈夫。ありがとうパパ」
わざとらしく、パパと呼べば田貫さんは人間に戻って嬉しそうに私を抱きしめる。田貫さんの腕の上から、また腕が重ねられて反対隣を見つめれば狐亮さんも私に絡みついていた。
「僕のこともパパって呼んでいいんだよ」
先ほどまで泣いていた私より、大粒の涙をこぼして狐亮さんが喚く。
「泣き上戸はめんどくさいからやめなさいって言ってるだろ、狐亮さん。帰すよ」
「アンナちゃんがパパって呼んでくれるまで離さない」
駄々っ子のように、狐亮さんがバタバタと尻尾を動かす。もふもふの黄色のしっぽが、足に触れてくすぐったい。
「はいはい、狐亮パパもありがとう」
「アンナぁあああああ」
「狐亮さんはおかえりです! ほら紅、連れて帰って」
紅と呼ばれたのは、ママ一号の狐亮さんの奥さんだ。紅さんは、渋々と言った感じで狐亮さんの腕を私から剥いで抱き上げる。狐亮さんはいつのまにか、完全にキツネになっていた。
「ごめんね、アンナちゃん」
「いえいえ、紅さんもまたお話ししましょうね」
「ちなみに、私のことはママって呼んでもいいんだよ」
「紅ママ?」
「うん」
よしよしと片手で私を撫でて、片手で狐亮さんを肩に担ぐ。紅さんが手を振りながら退店していくのを見送れば、次々とお客さんたちが帰っていく。