「どうしてみなさん優しいんですか」
「まぁ、ほら、ねぇ」

 誤魔化されながらも、きのこの和え物をぱくぱく口に放り込む。ニンニクと塩で味付けされてるだけなのに、あまりのおいしさにお腹がぐぅううっと鳴ってしまった。

「ほらほら、田貫さんとかコウのことは気にせずアンナちゃんはお腹いっぱいご飯を食べなよ」

 優しい言葉にこくんっと頷いて、キンカさんが持ってきてくれた定食を受け取る。きのこたっぷりのお味噌汁に、炊き立ての玄米ご飯。シャケのちゃんちゃん焼きに、きゅうりの浅漬け。

 ご飯はきっと大盛りだ。悲しいことがあるたびに、食べてしまう癖がある私のことをよく分かってくれてる。

「ありがとうキンカさん」
「まぁ、約束だからね」
「辛い事があったら、このお店でご飯を食べること」

 声にすれば、キンカさんも一言一句違わずに声に出していて重なる。涙はいつの間にか引っ込んでいて、乾いた涙が張り付いた頬が少しだけ痒い。
 
 このお店のご飯は不思議なことに、重たい気持ち、嫌な気持ち、悲しい気持ちを、折りたたんで胸の奥にしまい込んでくれる。

「どうしてなんでしょうね?」

 心の中で考えていた言葉を口に出せば、キンカさんはこっそり口元に人差し指を当てる。いつだってそう、ここの優しさが私の「悲しい」「辛い」を浄化させてくれた。

 答えが出るわけではないし、アドバイスをくれるわけてない。ただ、隣に居てご飯を食べて、笑ってくれるだけ。甘やかしてくれるだけ。それだけなのに、心がすっかり軽くなっている。