背負っていた重荷を少しだけ、下ろせた気がするのはこの雰囲気のおかげだろうか。一口、一口と噛み締めていくたびに涙が溢れ出てくる。

 そっと横から差し出されたハンカチは、緑色の縞模様でおじさんくさくて、泣きながら笑ってしまう。すっと拭えば、溶けたアイラインが滲んで黒い線になっていた。

「ごめんなさいごめんなさい! 私やっちゃった!」
「いいよいいよ、疲れ切ってるねぇアンナちゃん」
「新しいの買ってくるので、本当に」
「これくらい洗えば落ちるから大丈夫だって」

 顔を見れば狐亮さんが、メガネをかちゃりと上げて笑っている。安心しすぎて気が緩んでいたようだ。代わりとは言えないけど、私の使っていない予備のハンカチを鞄から探し出す。

「これ使ってください、これは私が洗ってくるので」
「本当に気にしなくて良いのに」
「だって狐亮さんの汚しちゃったから」
「いつも言ってるでしょ、俺らはアンナちゃんのこと娘みたいに思ってるんだよ。娘が汚したからって怒る人がどこにいるの、いや、居るかもしれないけどさ」

 頑固で厳しかった父を思い返す。それでも、こう言う時は父は怒らないで頭を撫でてくれたと思う。想像していれば、反対隣の田貫さんがぽんぽんっと頭を撫でてくれる。