夜の匂いが濃くなる一方だ。フラフラの体をなんとか引きずって、赤提灯にたどり着く。きっと中には、()()()揃ってる。

 少しガタついた扉を力任せに引けば、甘い醤油の香りが鼻の奥に突き刺さった。

「アンナちゃんおかえりー!」

 ほろ酔い顔のおじさんたちがビールの入ったジョッキをぶつけ合いながら、私を歓迎してくれる。

「ただいま、です」

 夜中の十一時とは思えないほど賑わってるここは、私の家みたいな感じの居酒屋。お父さんとお父さんとお父さんと、お母さんとお兄ちゃんと……

 実質、家でもあるんだけど。

「アンナちゃん、今日も顔色やっぱいね、ほらほら早く座って。ご飯出してあげるからさ」