「あのさぁ、佐々木。そろそろ何とかならんわけ?」

「何とか……ですか」

僕の返答に、イラついたように部長が整髪料でがっちり固まった髪を掻きむしりながら、デスクに置いてあった紙の束を掴んで叩きつけた。
その音がオフィス内の空気を凍り付かせて――さっきよりもボリュームを抑えたような話声があちこちで交わされる。

「婚約破棄したんだってなぁ。そりゃ気の毒だよ、うん。でも、んな事うちには関係無いわけよ。公私混同も甚だしいわけ。何だよ、自分の営業成績見えてねぇの? はっきり言うけど、そろそろ気使い続けるのも無理なんだよ。今のお前はただの給料泥棒。わかる?」

「おいおい寺村部長、言い過ぎだよ」

「あぁ、すんません」

本部長に頭を下げながらも、言葉は全くそんな風に思っていないのは明白だ。

「佐々木君もさ、今日から……まぁ明日からで良いからさ。頑張ってよ。元々は成績も悪くなかったんだから、ね」

本部長がデスクに座ったまま微笑み「部長、ちょっと頼みたい事あるんだけど」と手招きする。

「はい。ほら、気合い入れろよな」

去り際に背中を小突かれ、僕は何も言わないままその場を後にした。

一度デスクに戻り、外回りに行ってくる事を伝えた後輩は「はぁい」と、パソコン画面を見たまま表情無く答えただけだった。