れんげを置いて手を合わせようとすると、洗い物をしていたおはぎさんが「ちょっと待って」と慌てて水を止めた。

「はい、お待たせ。良いよ」

「え?」

「これは、この店のひとつの儀式みたいなもんさ」

ぽんさんは言いながら肉じゃがの豚肉を頬張る。
おはぎさんは改まったように背筋を伸ばし、目を閉じた。

「えっと……ごちそうさまでした」

「ふにゃっ!」

勢いよく開いた目は金色に光ったかと思うとすぐに元に戻り、何事も無かったかのように空いた土鍋を下げ始めた。

「な、なんですか今の」

「だから儀式よ、儀式」

焼いたサンマを当てに焼酎を飲む吉子さんが答えた。
闇子さんは、黙々とおにぎりを頬張り、時々たくあんをぽりぽりと言わせて頷く。

「お金の代わり」

闇子さんがぽつりと零す。

「そうなんだよ。あたしにはお金はいらなくてね。それよりも気持ちのこもった『ごちそうさま』が代金みたいなものなんだ」

おはぎさんは「温かいお茶でも淹れようか」と、湯呑を顔の横に掲げる。