「はいよ、たまご雑炊。熱いからね、気を付けて食べてよ」

木の鍋敷きに土鍋が乗せられ、紅色のれんげが添えられていた。

恐る恐る、乗せられていたタオル越しに蓋を開ける。

一斉にもわりと湧き上がった湯気の向こうに、黄金色のたまご雑炊が姿を現す。

「ごめんごめん。熱いから、こっちによそってから食べなさいね」

おはぎさんが出してくれた小ぶりの茶碗に、雑炊をれんげ一杯分だけ移して「いただきます」と俯いたまま囁いた。

昆布か、椎茸や白菜や大根から出たものだろうか。優しい出汁と、仄かな塩味が口の中にじわりと広がっていく。

ふわふわの卵が舌に転がり、柔らかいご飯と絡まり合いながら喉へと流れる。

「美味しい」

自然と口にした言葉と一緒に、嗚咽が漏れた。

おはぎさんがそっとティッシュの箱を僕の前に置いて、隣のぽんさんは枝豆を次々に口に放り込んではお猪口を口に運び続ける。

後ろの闇子さんたちが頼んだものなのか、おはぎさんが焼いている魚の皮の芳ばしい香りが店内を包み込んでいく。

「すみません。この前は、とんでもない事を……」

れんげと茶碗を手にしたまま、何とか声を振り絞った。

「良いの良いの。ここはみーんな色々あるお客さんばかりだから、あれくらい可愛いもんよ。ぽんさんなんて、酔っぱらった勢いで店中の酒全部飲み干した挙句に、お世辞にも上手いとは言えない歌を大熱唱して、最後には床で大の字で寝た事だってあるんだから」

「そうだぞぉ、俺よりずーっとマシだ!」

「何威張ってんだい、あんた」

おはぎさんの呆れて笑うと、ぽんさんの大らかな笑い声が店中に響く。
吉子さんも「これが案外居心地良かったりするのよねぇ」と言うと、闇子さんが「他に行くとこ無いし」と呟いた。

賑やかで、あたたかい。気を張る雰囲気がまるで無い食堂は、凍り付いていた僕の心に「話したい」という感情を抱かせている事に気付くと、自然とこれまでの事を喋っていた。