結婚はタイミングが大事なんですよ。

そんな事を、いつだったかテレビで芸人が嘆いていた。
詳しい事はぼやかしつつ、それでもとにかくタイミングが合わなかったのだと、誰に対する言い訳なのかひな壇の隅で熱弁していた。

「週刊誌で噂されていた女子アナの事じゃない?」と僕が買ってきたエクレアにかじりつく美咲の隣で、芸能界に疎い僕は「そうなんだ」と珈琲を口に含み、至福の息を漏らす。

テーブルの中央のティッシュに手を伸ばす美咲の髪から、嗅ぎ慣れない甘い花の匂いがして「シャンプー変えた?」と訊ねると、口の端に付いた生クリームを拭き取って「あぁ、そうだねぇ」とテレビを見たまま答える。

一日の終わりにこうしてソファでくつろぐ交際6年の僕たちは、恋人同士というより夫婦のようだったと思う。

美咲は僕の婚約者だった。