「ふわぁ、やっと終わったあぁ!」

今日は高校の入学式。式辞や祝辞がやたらと長いし、
小学校ときや、中学校のときの3倍近い人数だから呼名にもめっちゃ時間かかった!
あれ?なんか視線を感じる…。

「ぷっ」

なんか笑われたんだけど!?


って、あ。やらかした。完全にやらかしました!

「えー、佐藤さん。静かに。あと、着席を」

そう、私は佐藤《さとう》 藍那《あいな》 。
ただいま盛大にやらかしました。
入学式があまりにも長すぎて、終わった拍子に叫んでしまった。あぁぁぁ!何やってんだ私!

えっと、、、隣の笑ってきたお方のお名前は、、、。
確か、、、えっと、、、さ、さ、

「佐々木くん!」

「しー。あと、佐々木だと、佐藤の前な
 僕は後ろだから、白鳥《しらとり》 悠稀《ゆうき》
 1文字も掠ってないね」

なんか、めっちゃ名前かっこいいんだが!?
羨ましい。しかも顔面偏差値も高い!
だが、性格が惜しい。最後の一言がなければ、、。

「ほら、立ち止まってないで歩いて歩いて。退場だよ
 ほら、後ろが詰まってるよ」

「ご、ごめんごめん」

そうこうして、歩いているうちに教室に着いた。

「サトナちゃん教室着いたから叫んでも大丈夫だよ?」

「…」

サトナって誰だろうか。そんな名前の子いたっけ?私は名前は覚えるのは、、、、得意。
ではないな。うん。

「あれれ?
 佐藤さん。佐藤 藍那さん?どうかした?
 佐藤の最初の‘さと’と藍那の最後の‘な’でサトナ
 きにいらなかった?」

「あーそういう事ね。って、どんな略し方よ笑
 普通に藍那でいいよ。中学の頃そう呼ばれてたし」

変わった人だな、白鳥くんって。初めて呼ばれたかもしれないな。

「ふふっ。白鳥くんって変わってるね」

「藍那ちゃんほどではないけどね
 入学式そうそう、あんな先生に目をつけられそうな
 ことなんてしないよ
 あと、僕のことは悠くんでいいから」

「ちゃん付けじゃなくていいのに〜
 悠くんってもしかしてシャイ?」

「どっかの誰かさんみたいに、
 入学式であんな目立つようなことできるほど
 神経は図太くないかもね」

やっぱり悠くんは一言余計だ。

「じゃあ、藍那。また明日」

「う、うん。またあしたね。悠くん」

悠くんはずるいな。呼んでくれないって思ってたのに不意に呼んだりして。本当にずるい。

「あっ、悠くんちょっと待って!
 LINE交換しない?」

初対面なのにLINE交換って陽キャかよ、わたし。
引かれたり、苦手意識持たれてないかな、、、?

「うん、いいよ〜。まさか藍那ちゃんから
 交換を申し出てくるなんて
 いやー悠稀おじさん藍那ちゃんの成長に驚きだよ
 うぅぅ。しくしく」


「いや、どんなポジション!?」

またちゃん付けに戻った。キャラに合わせて?それとも、わざと?
本当にずるい。

まぁ、こんなやり取りをしつつ、LINE交換は無事終了。ということで気を取り直して。

「「また、あした」」


だけど、『またあした』は叶わなかった。

なぜなら悠くんは学校に来なかったから。
だけど、来なかった理由は単なる不登校じゃなかった。

その理由を知ったのはゴールデンウィーク明け。
それまでにLINEで連絡は週4ぐらいでとっていたし、何度も理由を聞いてみたけどはぐらかされてた。

理由を知った日。それは彼の転校する日。唐突だった。

突然の別れなんて、受け入れれる訳ない。だって、だって、わたしは、、、。

もう、悠くんのことを好きになってしまっていたからだ。

確かに1度しか会ってないし、直接会話したのだって5分ぐらいだと思う。
けど、LINEで沢山話して、電話もして、他愛のない会話だって覚えてる。

いつも一言多い悠くん。
だけど、ちゃんとその後フォローしてくれて、上げて落とすじゃなくて、落として上げるのがとても上手だった。

4月の下旬。ちょうどゴールデンウィーク初日の日。
いつもの時間。いつもの曜日で毎週のように通話してたのに、その日は断られた。断られた日以降も休みなのに通話はしなかった。

今思えば、彼はあの時限界に達してしまったのかもしれない。いや、絶対そうだ。病気に蝕まれ、体力の限界になったに違いない。

だけど、その夜。唐突に電話がかかってきた。
しかも、ビデオ通話。

「お風呂上がりなのに!」

通話できないって言ってたじゃん!
これで切るのは申し訳ないから、で、出てあげるけど〜。

いや、何様。私。

「も、もしもしっ!」

「藍那。ビデオ通話だからって緊張し過ぎだよ。
 今、普通に耳に当ててるでしょ笑
 真っ暗でなんにも見えないんだけど〜。」

「ごめん、ごめん。ビデオ通話って気づかなかったよ笑」

「そういうことにしておいてあげるね笑
 今、外に出れる?」

「う、うん?出れるけど」

「月が綺麗ですね
 今日は満月で、お月様大きくない?
 ピンクムーンって、言うらしいよ」

「わぁ、、綺麗。ありがとうっ
 わざわざこのために電話してくれたの?」

「それもあるけど、1番は顔を見たくなってね
 だって、1回しか見てないもん
 じゃあ、顔も見れたし、お月様も一緒に見れたから
 風邪ひかれても困るからそろそろ切ろっか」

「そ、そうだね!
 またね!」

「うん、また」

LINEでは、元気そうだった彼。最後の通話も元気そうだった。お別れの日。彼の口から思わぬことを聞かされた。

実は小3の頃まで、この地域に住んでいたらしい。
だけど、病気が発覚して大きな病院に入院するために東京に引っ越したらしい。

「今までのお礼」

そう言われて渡されたのは1個のみかんと、1本の赤い菊。
体からは想像もつかないほど元気そうに笑いながら渡してくれた。

「またね」

「ばいばい」

私はまた逢えることを願い、『またね』を使った。

しかし、彼はおそらくまた逢えるほど回復するか分からなかったのだと思う。だから、また逢えることを願うのではなく、もう運命に身を任せる覚悟。治療に専念する覚悟をしたのだろう。






そして、彼と私の物語はこの、約1ヶ月で終わった。




あれから、約3年。彼は元気にしているだろうか。
LINEはまだあるけれど、私から連絡もしていないし、もちろん彼からも連絡はない。縁起でもないけど、死んでしまっていても分からない。
だけど、約3年も経った今でも、ふと彼のことを思い出す。
思い出したその日は決まっていいことがある。
今日はどんないいことがあるのだろう。

私は高校を卒業してから、約1ヶ月で花屋でアルバイトをしている。

今になって知った話しだが、みかん、いわゆる柑橘。
言い換えればシトラス。
この花言葉には『美しさ』や『愛らしさ』
という意味があるらしい。
そして赤い菊。学名は、レッドクリサンセマムには
『あなたを愛しています』
という意味があるらしい。

私は気づかなかったけれど、実は生まれた時から小3まで悠くんとは幼なじみだったらしい。
ゆうくんというあだ名の子が中学の頃にいたから完全に忘れてしまっていた。幼い頃の記憶って以外と無いものらしい。

いつか、またいつか、悠くんと再会できることを願って…

「すみませーん。レッドクリサンセマム下さい」