梅雨に入って珍しく晴れた日。
いや、正しくは2時間目の途中から急に晴れた日。
その日はいつもの4人で集まって久々に外で昼食をとっていた。
雲ひとつない空から降り注ぐ太陽はココ2週間浴びてなかった人間からしたら、強烈だ。そんなことを考えているとスマホを弄っていた優珠《ゆず》が急に、
「ねね!みんな今日の夜、ヒマ?」
と言ったから、私は嫌な予感がした。
「英語と、数学の予習ぐらいかな。
あ、現国もあるな」
「もぉ〜。和翔《かずと》ったら、真面目だなぁ〜。
1日ぐらい大丈夫だよ!」
「優珠は1日どころじゃなくて、ほぼ毎回してないじゃん。あ、だからもしかして、今日してたから急に晴れたのかな?笑」
「もぅ、梓沙《あずさ》ったら酷いよ〜。
幸輝《こうき》からも、みんなに言ってよ〜」
「んー。今日は梓沙と幸輝側かな。
3対1で、優珠の負けだ。ということで、
みんな夜は忙しいから無理と」
すると、優珠は立ち上がって言った。
「違うんだよ〜。ただ遊ぶんじゃなくて、
今夜星を見に行こう」
「たまにはいい事言うんだね」
と、幸輝の冷静なツッコミにみんなで笑った。
キーンコーンカーンコーン
意外と長い間喋ってしまっていたみたい。
「じゃあ、みんな今日6時に星の広場集合で!
かいさんっ!」
「へいへい」
「もぅ。しかたない。こうなったら聞かないもん」
「だな」
家に帰って、そういえば持ち物を聞いていないことを思い出した。とりあえず『星空観察 持ち物』
こんなもので検索してみたらいいのだろうか。
そういえば星を見るにしてもなんで今日なんだろう?
そういえばスマホを見てたら言ったからなにか今日あるのかな?
「ピロン」
えーっと。
『今日はなんと!なな、なんと!?
うしかい座流星群が見れるらしいです!
だからみんなで見たいな〜。
ということで持ち物言ってなかったから今から送る!』
あれ?ここで終わってる。
3分後。
「ピロン」
長いな。どんなけ持ってこさせる気だよ。
『持ち物は水筒とレジャーシート。
おにぎりとか、パンとかお腹すいた時用の食べ物。
望遠鏡は、借りてきて、山にもう車で持って行って
もらってるから。
あ、各自カメラ用意!
ぜったいだからね!』
うん、3分かかったにしては短い文章に思えないこともないな。うん。
え?もしかして、歩いていく?
そんなわけ、ないよね。うん。
6時になったのに、まだ優珠が来ない。
もう、優珠以外は揃っているのに。
「ごめーん!!遅れたぁ、!」
「まぁ、優珠らしいな。車を呼んでくれてるんだろ?」
「え?歩いていくよ?」
「「「はあぁ!?」」」
私の嫌な予感は的中。誰も懐中電灯を持ってきていないからあかりの無い道を4人で歩くことになった。
「ねね、みんなでしりとりしない?」
優珠のその発言からしりとりが始まった。
順番は 優珠→私→幸輝→和翔 の順番。
「じゃあ、しりとり、の、り!」
りんご、胡麻《ごま》、松ぼっくり、りす、スイス、
スパイス、スライス、ストロベリームース、
ステンドグラス、スライドガラス…。
「もう、【す】ばっかり!」
私の一言で、みんなして笑った。私はこの笑い声に救われた。
暗くて周りがあまり見えず、声はするけど姿はほとんど分からない。それほどまでに山道は暗かった。
多分それはみんなもそうだと思う。
姿が見えないことによる孤独。
それに、不安も伴う。
そういったものに負けてしまわぬよう、みんなで高校生と思えないほどはしゃいだ。もし、傍から見たら、元気な大学生に見えただろう。
急に道が開き、辺りに木がない場所に出た。
あまりの綺麗さに、みんな声が出なかった。
この時、みんなして思っただろう。
『星が降っているようだ』
と。
すると、その刹那星が降った。比喩が本当になった。
「「「「あ!」」」」
みんなの口から同じ言葉。しかも、同じタイミングで。
見えなくなってしばらくしてから、幸輝が、
「カメラのシャッターを開きっぱなしにして、みんなで4方位とも撮ろう!」
「だな」
「うん」
「そうね」
カメラを設置しているうちにも2〜3個、星が降るのを見た。まだピークではないみたいだ。
みんな、カメラの設置が終わったら幸輝先生による、星座講座があった。みんなレジャーシートは持ってきていたので、和翔のふざけた発言により正座で聞くことになったのだが、結局寝転んだ方が見やすいということで、みんなで寝転んだ。
「…で、あの明るい3つの星からなる三角形が夏の大三角で、あれがデネブ、アルタイル、ベガ」
私は天体が苦手だ。だから、指を指されただけだと分からなかった。
やっと見つけた、織姫様《ベガ》。だけど、見つけれない
彦星様《アルタイル》。これじゃあ、ひとりぼっち。
ふと見ると、幸輝が優珠に夏の大三角を教えていた。
楽しげに教えている君を見ると心が痛む。
「ぉ………」
小さく『おしえて』と言おうとしたが、言えなかった。声をかけるか悩んだが、声をかけることが出来なかった。
本当は気づいてた。どうしてこんなにもこの瞬間が苦しいのか。いつも、分からないような振りをしてた。分かりたくなかった。
『どうしたい?』
ふと振り向くとそこには誰もいなかった。この声は幸輝の声だ。幻聴が聞こえてしまったのかもしれない。
「私は…」
「どうかした?」
「んぇ?」
急に声をかけられたから変な声を出してしまった。
「なんだよその声笑
『んぇ?』
なんて初めて聞いたぞ笑」
「変な声を出して悪かったですねー。
急に声をかけてきた和翔《かずと》が悪いんですぅー」
「あっ、みんなみて!
うしかい座流星群のピークの時間になったよ!
あ、でも、ピークって言っても1分に1個ぐらいしか
見えないけどね(苦笑)」
やっぱり幸輝は物知りで、最後に見せた笑顔とか、かわかっこよくて…
でも、そこに私は届かない。
真実は残酷だ
「あ、幸輝!流れた!今流れたよね!?」
綺麗だとは思ったけれど、楽しめなかった。
途中で泣きたくもなった。泣くな!わたし!
幸輝は私だけのものじゃない。
わかってる、わかってるけど……
私が、幸輝と出会ったのは小学1年生の頃。1クラスしかない私の学校。6年間一緒だった。
中学校。これまた1クラスで3年間一緒だった。
合計9年間一緒だった。
いつからだろう。いつの間にか…。
『好き』という一言が言えなかった。いや言わなかったの方が正しいかもしれない。
そういえば中3の今頃。『高校に合格しますように』
と、願掛けをしに見に行ったことがあった。
その日は親に内緒で見に行ったので、夜遅くでしかも、ちょうどピーク時だった。
その夜はまさに今日みたいに星が降っていた。
私はこの星の降る季節は何歳になっても忘れないだろう。
今でも鮮明に思い出せる。笑った顔も、怒った顔も、
拗《す》ねた顔も。
どんな顔も大好きでした。
おかしいのは分かってる。優珠の知らない私だけの秘密。
思い出の姿の幸輝が指をさす。無邪気な声で。