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朝、目を覚ます。やっと高校の入学だ。よって、僕の余命は残り四ヶ月。僕は新しい制服に腕を通してカバンを持ち、家を出る。登校は基本車かバス。今日は母親が朝から仕事だったためバスで行くことになった。僕はバス停まで歩き、ちょうどバスが到着していたのでバスに乗り込む。学校まで差程距離は無いので、外の風景を見て過ごす。ふと携帯を見てみると、メッセージが二件入っていた。
『おはよう、隼瀬くん』
『今日は正門で待ってるからね』
僕はその二件を読み、返信を送信する。
そしてちょうどバスが学校の近くに止まり、運賃を払いバスを下りる。学校は本当に近くて、目の前では無いが角を曲がったらすぐに正門が見える。僕は数多い人数の中から、梨花の姿を探す。見つけたが、梨花はたくさんの人と話している。やはり、ここの高校でも人気者なのかもしれない。
「あ!隼瀬くん!おはよう」
梨花は僕の姿を見つけるなりこちらに手を振ってくる。手を振ってくるのは嬉しいが、なんとも目立っているため控えめに振り返す。
「梨花が待ってたのってこの人?」
「うん、そうだよ。」
何となく目が合った女の子に、僕は軽く会釈する。正直、あまり慣れていない異性の人と話すのは苦手だ。
「行こっか。教室まで」
「あ、うん。」
僕は梨花に手首を取られ、歩く。下駄箱で靴を取り換え、中へ入る。中は意外と綺麗に保たれていた。
「梨花、柊羽ってどこの学校に通ってるかわかる?」
「柊羽くん?あぁ、同じ学校だと思うよ。」
梨花は人差し指を顎に当てながらそういった。
「そうなんだ⋯⋯」
僕にとって好調だ。いっそ、梨花と一緒に病気のことと、余命のことを伝えられたら楽ちんだな。また今度呼び出して伝えよう。
「隼瀬くん?どうしたの?」
「あ、ううん。なんでもないよ。」
僕は梨花に話しかけられて、自分がぼーっとしていたことに気がつく。
「新しい学校で緊張してるの?」
「うん、そうなのかもしれない。」
僕は笑いながらそう言った。
「ここよ。教科書は机の中に入ってるから。」
「うん、わかった。ありがとう。」
僕は席について教科書を確認して、カバンに詰める。
「ねぇ、君」
突然後ろから話しかけられる。
「入学式の時は居なかったよね?」
「う、うん。」
「どうして?」
「あ、えっと⋯⋯なんて言うか」
僕は病気のことを見ず知らずの人に言う勇気はない。
「足が悪くて」
中学の頃は膝が痛いと言って数週間休んだことがあるが、言い訳も乏しい。
「そうなんだ。名前はなんて言うの?」
「柳原隼瀬だよ。」
「そうなんだ。俺は麗音(れおん)。気軽に呼んでくれて構わないよ」
「うん、ありがとう。」
僕は学校が始まって早々新しい友達ができ、嬉しいけれどこれ以上新しい友達を作るのはやめよう。
「じゃあ、チャイムなるから。何かわからないことがあったら遠慮なく言ってくれ。」
「ありがとう」
僕たちはそれぞれ席についた。同時に先生が入ってくる。僕にとって新しい授業だ。

「隼瀬くん、午前の授業お疲れ様。」
「ありがとう」
梨花は僕にジュースを持ってきてくれた。僕はそれを受け取る。
「もう帰るの?」
「うん、先生から午後の授業はやめとけって言われてるから。」
「そうなんだ。これからもあるのに大変だね。」
「あぁ⋯⋯うん、そうだね。」
これから。僕にこれからなんてあるのだろうか。否、あるわけない。
「隼瀬くん?大丈夫?」
「あ、うん。ごめん」
「あ、予鈴がなるから帰るね。隼瀬くん、職員室の行き方わかる?」
「うん、大丈夫。午後の授業頑張って。」
「ありがとう。」
僕たちは別れた。僕はそのまま教室を出た。職員室に向かう途中、柊羽と目が合ったが手だけを振ってそのまま去った。

次の日。僕は学校へ行く前に携帯を見た。すると、メッセージが一件入っていた。相手は柊羽だった。内容は「学校来てたんだな」と。僕は「そうだよ」と入力し送信した。このあと、どうしてなど原因を聞かれたらどう答えようか。僕はそんなことを考えながら玄関を出た。今日は家に母親が居たので車で送って貰うことにした。
「じゃあ、行ってきます」
「今日は一時にここで待ってるね。気をつけて」
「分かった」
車の扉を閉めて、正門へ向かう。正門にはいつも通り梨花が居た。
「おはよう隼瀬くん」
「おはよう、梨花」
挨拶を交わして、またお互い校門を通る。
「今日も午前だけ?」
「そうだよ」
階段をのぼり、教室へ入る。
「おはよ!隼瀬」
「おはよう、麗音」
馴れ馴れしい彼とは、あまり仲良くなれないかもしれない。僕は心の中で謝りながらそう思った。
「隼瀬」
「えっ?!」
後ろから突然話し掛けられる。声の主は、僕がよく知る柊羽だった。
「少し話がしたい。今、いい?」
「うん。いいよ」
僕は柊羽に連れられて人通りが少ない廊下へ連れられた。
「どうしたの?突然」
「お前、やっぱり俺に話すことあるだろ」
「話す⋯⋯こと?」
「あぁ。どうせ、昨日まで学校へ来なかった理由は足が痛いとかだろ?」
「あ⋯⋯うん」
「それが違うだろって言ってんの」
柊羽は、僕を見つめてそう言った。僕よりも数センチ高い柊羽の身長はなんだか怖い。
「ち、違うって⋯⋯」
「もういいんだって。言い訳なんて。俺だって聞きたくない。」
「⋯⋯⋯⋯」
もう言うしかない。でも、今言ったとして。
「おかしいだろ。中学入った時も足が痛いとか言って来なかっただろ。途中もずっと」
「うん。」
「それ、おかしいだろ。どう考えても。話せよ、全部」
「帰り⋯⋯いや、学校終わってから。俺たちがよく一緒に遊んだ公園あるだろ」
「あぁ」
「そこの公園に来てくれれば、話す。全部」
「⋯⋯分かった。お前こそ絶対来いよ」
「分かってる」
お互い約束を交わし、僕達は教室に戻った。僕はいつも通り、午前で授業を終わらせて家へ帰った。
「おかえり隼瀬。学校どうだった?」
「うん、いつも通り。今日、夕方くらいに柊羽と公園行ってくる」
「公園?」
「うん、公園。」
「そう、分かったわ。遅くならないようにね」
母親は怪しそうに僕を見ていたが、理由は聞いてこず了承した。正直助かった。
「着いたわよ。カバン持つわ。」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
母親の気遣いをやんわり断り、カバンを持つ。
「うわ」
カバンを持って立ち上がったはずが、僕はしゃがみこんでいた。
「大丈夫?!もう、だから言ったじゃない」
「ご、ごめん⋯⋯さっきまで持ててたから行けるかなって」
「気をつけなさい。」
「うん、ごめん」
僕は大人しくカバンを母親に渡した。そして僕達は家の中へ入っていく。柊羽との約束まであまり時間が無い。チクタクと進む時計の音が、僕の心を急かすようで落ち着かない。
「隼瀬、大丈夫?」
「大丈夫。」
僕は頭の中で何度もシュミレーションして、大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせる。
「行ってくるね、公園」
「え?もうそんな時間。行ってらっしゃい。気をつけるのよ」
「うん」
僕は玄関を出る。あまり遠くは無いのに、公園までがとても遠く感じる。
「あ、梨花誘った方が良かったかな」
突然誘われて、尚且つ夕方。危ない時間帯に誘う訳には行かないので、また別の日にすることにした。

「お、来たか」
やっと見えてきた公園に居たのは、紛れもなく柊羽だった。
「ごめん、遅れたかも」
「いや、俺が早かった」
お互い沈黙が流れる。
「話せよ」
「あ⋯⋯うん。」
僕は意を決して言葉を発す。
「俺、病気なんだ」
「⋯⋯は?」
「病気で、もう長くない。ただ、それだけ」
「ふ、ふざけるなよ⋯⋯」
「ふざけてなんか居ない。本当のことなんだ」
「なんで早く言わなかったんだ!!」
柊羽が怒鳴る。
「⋯⋯言おうと思ってた。でも、言えなかった」
「なぁ、嘘だよな。隼瀬、嘘だと言ってくれよ⋯⋯」
「ごめん。」
僕がそう言った途端、彼は膝から崩れ落ちた。僕はただ立って彼を見つめることしか出来なかった。
「柊羽、立って。まだ話がしたい」
僕がそう言うと、彼は立ち上がった。僕達はそのままブランコに座り、ぽつぽつと話し出す。
「最初は、どうしようかと思った」
「うん」
「先生から死ぬよって言われて、いっそ自分の首を締めてしまおうかと思った日もあった」
「うん」
「でも、そんな俺を救ってくれたのは柊羽と梨花だった」
「俺?」
「うん。柊羽は何事にも一生懸命頑張ってて、あぁ、俺はなんて愚かな人間なんだって思って」
「そんなことない」
「柊羽、こんな俺でもまだ友達でいてくれる?」
「当たり前だ。お前が死んでも、俺はずっとお前の親友だ」
「柊羽ならそう言ってくれると思った」
「でも俺は、お前が黙っていたこと怒ってるからな」
「それはごめんって。すぐ話さなきゃって思ってたけど、話せなかったんだ」
「これからは、俺にわがままを言え。絶対だ」
「うーん、難しいなぁ⋯⋯」
「言わなかったら俺は一生お前に付き纏う」
「それでもいいよ?俺は」
「俺が良くない」
「柊羽も随分わがままだなぁ」
「しょうがないだろ」
僕たちはまた新しい友人のように笑い合った。
「梨花は?梨花には言ったのか」
「⋯⋯ううん、言ってない。でも、病気のことは知ってる」
「早く言え。絶対に」
「うん、そうするよ。」
「お前を家まで送る。」
「うーん、じゃあお願いしようかなぁ」
僕と柊羽は一緒に歩き出す。柊羽は僕の歩くペースに合わせてくれて、ただひたすら歩いた。
「ありがとう柊羽。また明日、学校で」
「あぁ。話してくれてありがとう。またな、隼瀬」
僕たちは別れた。僕はそのまま玄関の扉を開け、帰宅を伝えた。
「何してきたの?珍しいじゃない、2人で遊びに行くなんて」
「遊びに行ったわけじゃないけどね。たまには二人で話したいなって思って」
「そうなの。柊羽くんも昔からよく遊んでくれたからね」
「うん。」
僕は夕飯が出来るまでリビングで待つことにした。
「隼瀬ー、色鉛筆って持ってる?」
二階から降りてきた由莉が、僕にそう尋ねる。
「持ってるよ。どうして?」
「課題で必要でさ。どんなやつ?」
「結構色あるよ。返してくれれば全部貸してあげる」
僕は色鉛筆が大量に入ったケースを由莉に渡す。
「ありがと、まじ助かる。」
由莉はそれを受けとり、また二階に行ってしまった。
「由莉ー?すぐご飯だからねー」
「分かったー!」
何気ない日常も、今の僕にとって幸せだ。数少ない幸せの半分は、家族だ。残りは、柊羽と梨花。僕はそんな数少ない幸せを噛み締めながらソファに座った。
(明日は、梨花⋯⋯その明日は、麗音⋯⋯)
まだまだ伝えなきゃ行けない人は沢山いる。僕は過去の僕を恨んだ。
「隼瀬、ご飯よ」
「ありがとう」
僕は母親の作った料理を前に座った。数ヶ月前に比べて、僕が食べるようになったご飯の量随分少なくなった。
「いただきます」
手を合わせてご飯を食べる。ただその日常が、今の僕にとって幸せだった。ご飯を食べ、寝る支度をしてから僕はベッドの上で梨花と電話を始める。電話を始め、時間が経った頃に僕は口を開いた。
「梨花、明日話があるんだ。学校終わってから、正門で待っててくれない?」
『え?うん、分かった。』
「じゃあね、おやすみ。」
『おやすみ!』
お互い電話を切り、僕はいつも通り眠りにつく。

時は過ぎて、放課後。僕は緊張しながら正門で梨花を待った。
「ごめん!遅れちゃった」
「ううん、俺こそ少し早すぎた」
「そして、話って?」
「あぁ、うん⋯⋯俺たちが初めて出会った場所、覚えてる?」
「初めてあった場所?確か⋯⋯病院だったよね」
「そう。なんで俺が病院に居たか知ってるよね」
「病気だったよね?軽い病気って⋯⋯」
「⋯⋯ごめん、それ嘘なんだ」
「え⋯⋯?」
梨花の表情は、影になりよく見えなかった。
「俺、もうすぐ死ぬんだ。」
「嘘だよね?嘘、だよね⋯⋯?」
「ごめん、今まで言えなくて」
「そんな、私、まだ隼瀬くんと、出会ったばかりなのに⋯⋯」
「本当に、ごめんね。」
「⋯⋯じゃあ、今まで隼瀬くんが経験できなかったことを私にやらせて。」
「えっ」
「私が隼瀬くんのやりたいことをやらせて欲しい。」
「それは、ありがとう」
「また今度、遊びに行こう。柊羽くんでもさそって。」
「いいの?」
「うん。隼瀬くん、柊羽くんと仲良かったよね?」
「うん。じゃあ、柊羽さそってくるね。」
「わかった。ありがとう。」
僕たちは別れた。僕も家に帰る途中で、柊羽にメールを送った。
「ただいま。」
「おかえり。ご飯できてるわよ。」
「わかった、ありがとう。」
僕は手を洗ってご飯を食べる。最近は無意味な日を過ごしていた気がしていた。でも、今日も昨日も意味のある日だったような気がする。来週の土曜日は遊びに行く日。僕は死ぬまで、楽しい日々を過ごせるのかもしれない。そう思ったら、僕は少ないこれからがとても楽しみになった。

一週間後。僕は待ち合わせ場所の駅にいた。
「ごめん、お待たせ」
「柊羽?!早いね」
「隼瀬の時間を使うわけにはいかないだろ」
「あー、うんありがとう」
珍しく私服で揃ったみんなと一緒に電車へ乗り込む。久しぶりのお出かけで、少しテンションが上がっていた。
「隼瀬、具合が悪くなったら伝えろよ」
「そうだよ。すぐ助けてあげるから」
「ありがとう」
電車に揺られ、三十分後。駅に着いて電車を降りる。デパートは駅の近くにある。
「隼瀬、行きたいところはあるか?」
「初めて来るからよくわかんない」
「え、隼瀬くんここ初めて来るの?」
「うん。いつも病院にいたから」
「そうなんだ。じゃあ今日は楽しも。」
「うん!」
僕は笑いながらそう返事をした。
「最近リニューアルしたんだってな。相当広くなってる」
「本当だ⋯⋯迷子になっちゃいそう」
「隼瀬、離れるなよ」
「分かってるって」
こんなに広ければ、本当に迷子になってしまいそうだ。
「まず昼ごはんだよなー。」
僕達は食堂へ向かい、ご飯を食べる。梨花はクレープ、柊羽はラーメン、僕はポテトを食べていた。
「次、何見る?」
「思い出に残るような⋯⋯写真でも撮ろうか!」
「いいね、それ」
僕達はご飯を食べ終わり、ゲームセンターに入った。ゲームセンターの中にある写真機で写真を撮った。
「はは、梨花宇宙人みたい」
元々目が大きい梨花が、写真で加工されさらに目が大きくなるとまるで宇宙人のようだ。
「もー!そんな事言わないでよ隼瀬くん」
「ごめんって」
僕は梨花と共に写真の落書きをしていた。一方柊羽は一瞬でどこかへ行ってしまった。
「できた!これ取り分けて⋯⋯はい、隼瀬くん」
「ありがとう」
「あれ、柊羽くんは?」
「ごめん、終わってた?」
戻ってきた柊羽の腕には、大きなぬいぐるみがいた。
「柊羽、これどうしたの?」
「取った」
「ええ、すごい」
「隼瀬にやるよ。思い出の品」
「いいの?」
「ああ、あげる」
柊羽はそう言いながら僕にぬいぐるみを渡してきた。僕は素直に受け取って、ぬいぐるみを見つめる。
「でもそれ重いだろ。持っててやるよ」
「うん、ありがとう」
僕はまた柊羽にぬいぐるみを返した。
「次どこ行こうか」
「あのさ、最後でいいんだけど」
「ん?」
「最後に、花火したいな」
「花火?いいぞ。じゃあ最後に花火買ってくか」
「ありがとう」
僕は憧れていた、花火をみんなですることが出来ることに喜びを抱いていた。
「じゃあ、次行くかー!」
僕らは服屋に入った。お揃いの服を買って、お揃いのアクセサリーを買って。
「じゃあ、最後花火買って花火するか」
僕達はいちばん大きい花火を割り勘して買い、駅で僕らの町へ帰りいつもの公園で花火を始めた。
「隼瀬ー!こっちだぞ」
「あ、うん!」
僕は柊羽達のいる所へ向かう。そこではもう花火が始まっていた。
「隼瀬、しっかり握ってろよ」
「う、うん」
花火の持ち手を握りしめ、柊羽が先端に火をつけてくれる。途端、ぱちぱちと花火が弾けた。目の前の明るい火に、目は輝いていた。
「綺麗ね⋯⋯」
「うん、綺麗⋯⋯」
「俺も一本ちょうだい」
花火を握りしめている柊羽が隣から火をちょんと付けて同じ火が弾ける。一方僕の花火は力尽きてバケツの中に入っている。
「新しい花火持ってくるね」
少し離れた場所にある花火を持ってこようと、立ち上がる。
「ッ⋯⋯!!」
途端、ぐらっと目眩がする。僕はすぐにしゃがみ、目眩がおさまるのを待った。
「隼瀬?!」
「隼瀬くん?!」
「う、ぁ⋯⋯」
動悸も激しく、倒れてしまうかと思った。
否、僕は倒れていた。

「隼瀬!」
僕は目を覚ました。場所は⋯⋯病院だ。
「あれ、ここ⋯⋯」
「隼瀬くん、倒れたのよ。もう、心配させないで」
「へへ、ごめん⋯⋯」
「体に異常は?目眩とか、しない?」
「大丈夫、もう収まった」
「よかった⋯⋯おばさんは今、先生と話してるから」
「そうなんだ」
僕は布団から起き上がる。外は明るかった。
「ごめん、心配かけて。大丈夫だから」
「もう隼瀬の大丈夫は信用出来ないな」
「そうよ」
「それは困ったなぁ、」
僕は笑って誤魔化した。その誤魔化しが二人をさらに怒らせてしまったようだ。
「もう!さっきは私たちがいたから良かったけど、居なかったらどうするつもりだったの?!これからは気をつけてね」
「そうだぞ」
「うん、気をつけるよ。ありがとう」
「本当に気をつけてよ。私たちは用事があるから帰るけど⋯⋯まずいなって思ったら誰かに言うこと。隼瀬くんはそれが出来てない」
「分かった。ごめんね、心配かけて」
僕がそう言うと、二人は部屋を出ていった。
僕が死ぬまで、あと二ヶ月。

「隼瀬くん、一ヶ月後に文化祭があるの知ってる?」
「文化祭?」
「そう、文化祭。私たちのクラスは劇をやるんだよ。」
「そうなんだ。見に行ってもいい?」
「もちろん!」
梨花は僕の病室の花を変えながらそう言った。僕は入院のせいで間違いなく劇に出ることは出来ない。だが、自分のクラスの出し物位は見たい。
「ほかのクラスの出し物も見ないかない?柊羽くんのクラスはなにをやるんだっけな⋯⋯あ!りんごあめだ。りんごあめを作るって言ってたよ」
「へぇ、楽しそう」
今まで文化祭に参加したことはなかったため、初めての文化祭に少し胸を躍らせていた。
「楽しみにしててね。私、主役を任されたの。」
「主役?凄いじゃん」
「でしょ!だから頑張ろうって思って」
彼女は楽しそうに笑っていた。この笑顔を見ると、僕も自然と笑顔になる。
「楽しみにしてるね。見に行くから」
「うん!待ってるね」
梨花はそう言って病室を出ていった。入れ替わりで柊羽が病室に入ってくる。
「隼瀬、具合はどうだ?」
「柊羽、来てくれたんだね」
柊羽はたくさんのゼリーを持って来てくれた。
「いいのに、わざわざ持ってこなくて」
「いーや、俺がしたいからしただけ」
柊羽は机にゼリーを置いて、話を進めた。
「一ヶ月後、文化祭があるんだ。俺たちのクラスはりんごあめをするんだ。梨花たちのクラスは⋯⋯劇をやるって」
「うん、さっき梨花から聞いた。」
「あ、来てたのか。すれ違いになっちゃったか」
「そうみたいだね」
「隼瀬ってりんごあめ好きだったよな?」
「知ってたんだ」
僕が昔、家族と柊羽の家族で一緒にお祭りへ行った時、りんごあめを初めて食べて美味しい美味しいと何度も言った記憶がある。その事を柊羽は覚えてくれていたんだ。
「それで、通してくれたの?」
「そう。隼瀬の名前は出てないけど、そんなことを言ったらすぐ許可してくれた」
「いいクラスだね」
「そうだね、本当」
「しまった、俺今から塾だ。ごめんな隼瀬、あんまり長くいられなくて」
「ううん、来てくれるだけで嬉しいから」
「じゃあな、隼瀬!」
「うん、またね柊羽」
僕達は別れた。

文化祭当日。
「隼瀬くん、私たち劇まで時間あるから一緒に回ろ!」
「あ、うん」
僕は主治医に何とか説得して文化祭に出ることを許してもらい、僕は病院を出た。
「先にりんごあめに行かない?」
「そうだね、行こう」
僕達は柊羽のいるクラスへ行った。
「隼瀬、来てくれたんだ」
「うん、来たよ。一本何円?」
「150円だよ。食べる?」
「一本ちょうだい」
僕がそう言うと、柊羽はすぐ持ってきてくれた。僕はそれを受け取って、ひとくち食べる。
「美味しい」
「当たり前だろ!俺たちのりんごあめが一番だ」
「うん、本当かも」
「梨花も一本どうぞ」
「ありがとう」
梨花もひとくち食べて、美味しいと言っていた。その言葉に、柊羽は同じことを言っていた。
「待って、今何時?!」
「今?今は十時半だけど、」
「やばい!もう劇の集合時間だ!」
「えっ!急いで食べて!」
梨花はチョコバナナをひとくちでパクッと食べると、そのまま走り去った。
「ちょうど俺も休憩だし、一緒に劇見に行く?」
「行きたい!」
僕が顔を上げると、その反動でりんごあめが落ちそうになる。
「おい、落ちるだろ」
柊羽がりんごあめを手で拾った。
「ごめん柊羽、つい⋯⋯」
柊羽は拾ったるをパクりんごあめと食べた。
「よし、行くぞ」
「はーい」
柊羽に手を引かれ、体育館へ向かった。
「わぁ、人が多い」
体育館の中は人で溢れかえっていて、はぐれそうだ。
「おい、はぐれんなよ」
「まって、無理かも」
僕は気がついたら人の流れに飲まれ、迷子になりそうになる。
「馬鹿、こっちだ!」
「うわぁ!」
僕は勢いのまま倒れる。
「ったく、言ったそばから」
「へへ、ごめん」
「人が多いな、さっきのクラスは何だったんだ?」
「さっきのクラスの出し物は⋯⋯あれだね、バンド」
「あー、そりゃ人気だわ⋯⋯」
柊羽は頭をガシガシっとかいた。
「あれ?柊羽くんと隼瀬くん。こんなところでどうしたの?」
僕たちの前には、衣装に身を包んだ梨花の姿。
「ごめん、人の流れが多くて避難してきた」
「そうだったんだ。人が少なくなるまでここにいなよ」
「うん、そうさせてもらう。ありがとう」
そう言って僕と柊羽はその場にしゃがみ込んだ。
「うぅ⋯⋯」
「隼瀬?どうした?」
「いや、ごめん⋯⋯人混みとか苦手で」
「そうだったのか。早く言ってくれよな」
「へへ、ごめん」
僕はそのまま膝に顔を埋めた。
「そろそろ大丈夫そうだが⋯⋯隼瀬、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。」
僕達は立ち上がって、予め用意してあった席に着いた。
「始まるよ柊羽!」
突然真っ暗になった体育館に、観客はざわっとする。
『むかしむかし、あるところに、かわいいかわいい王女様がいました』
アナウンスと共に梨花が出てくる。
そして次々にキャラクターが出てくる。
劇も終盤、クライマックスシーンなのにも関わらず僕の体調はとても悪かった。いつも緊張するシーンは心拍数が上がってしまい具合が悪くなってしまう。
「隼瀬?大丈夫か?」
柊羽が小声でこちらに話しかけてくる。真っ暗なため、柊羽の顔は見えない。それに、頭をあげることすらできない。
「大丈夫⋯⋯じゃなさそうだな。ちょっと抜けるか」
柊羽が軽く腰を浮かしたのを見て、僕も動こうとする。が、動くことすら出来ない。
「動けるか?」
柊羽にそう聞かれる。僕は何とか立ち上がって動く。
「しんどいな、大丈夫だからな」
なんとか体育館の外へ連れてってくれて、柊羽はすぐ車椅子を持ってきてくれた。柊羽の手助けによって座り、保健室へ向かう。
「しんどかったら眠っちゃっていいぞ。」
「そ、する⋯⋯」
僕はそのまま眠りについた。

「⋯⋯隼瀬!」
「し、柊羽⋯⋯?」
「良かった、目が覚めたか」
僕は目が覚めて、周りをきょろきょろ見る。どうやら僕は病院にいるらしい。
「しゅ、う」
酸素マスクのせいで話しにくい。柊羽は僕に近づいて一生懸命聞き取ろうとしてくれる。
「ごめん⋯⋯迷惑、かけて⋯⋯」
「何言ってるんだ。何も迷惑なんかじゃねぇよ」
柊羽はそう言って僕の頭を撫でてくれた。
「あり、がと⋯⋯」
僕は笑って、また眠りについた。