花が白衛と会って数日が経過し本格的な夏が始まった。
強い日差しが照りつけるある日、帝都にある議場に異能を所有する家の当主達が集まり会合が開かれていた。
議場に燈夜が入ると座っていた当主達は一斉に立ち上がる。
その中には美藤家の当主、蓮太郎もおり妻の透緒子とが犯した罪などに対して追求されるのを確実視しているのか顔を青ざめさせている。
燈夜はそんな蓮太郎を一瞥すると自席前に立ち口を開いた。
「これより定例会合を始める」
「はっ!」
立ち上がっていた他の当主達は声を揃え返事をし、お辞儀をした。
燈夜が座ると後に続くように全員が座り会合が始まった。
始まってしばらくは簡単な報告などが行われすぐに今日の本題であろう美藤家についての議題に移る。
「美藤家については皆知っているな?」
蓮太郎以外の全員が頷く。
ついに議題に上がってしまったと蓮太郎は先ほどよりも顔色を悪くし額から汗も出している。
そんな彼に目もくれず燈夜は話を続けた。
「私の婚約者である花に対する美藤透緒子の誘拐、暴行……。姉の未都は花の記憶の一部を消去した。それらの非道な行動を静観していた美藤家の現当主、蓮太郎も同罪」
皆からの視線が集まり耐えきれず蓮太郎は俯くしかなかった。
まだ花の本当の父親である貴之が生きていた頃、透緒子と蓮太郎は不倫関係にあった。
透緒子が変わってしまったのは花が生まれてから。
薄桜色の髪に強い嫌悪感を抱いていたが、せめて強い異能が目覚めればとその年齢がくるのを待っていた。
そして異能がないことを知ると性格は豹変し花を虐げてきた。
苛立ちを発散させるように身体が弱い貴之が床に伏せている間に外で遊び呆け、蓮太郎と出逢った。
蓮太郎も地位は低いが名家の出身で風の異能を持っている。
透緒子が周囲の反対を押し切り結婚をし美藤家へやって来た。
名高い美藤家の当主になれば権力や財力が全て手に入り優雅な生活が送れると思っていたがその夢は散っていった。
妻の透緒子や未都の行動、花が虐げられているのを蓮太郎が静観していたことが西園寺家の当主の逆鱗に触れ管理下に置かれることになった。
周囲の目も厳しく屋敷に住むのは苦しくなり今は地方の別荘に移っている。
しかし没落も時間の問題だろうと薄々分かっていた。
「よって美藤家は没落。異能も剥奪する」
冷たい声が議場に響き他の参加者達も納得しているように頷く。
異能者の中に力を奪う『剥奪』を行使できる者がいる。
異能者が重罪を犯し剥奪の刑に処される際に取り仕切る。
そんな彼らも滅多に力を行使する機会もなく久方ぶりの仕事だ。
「お、お待ちください!せめて異能は剥奪せずに……!」
異能まで取られてしまっては全て失うと焦った蓮太郎は席から立ち上がり燈夜に訴える。
没落しても異能があればまた事業などを起こした際に役に立つと思っていたがまさか剥奪されるとは思っていなかったのだ。
正しさと強さを兼ね備えた燈夜に異論、反論をする者などいない。
燈夜は殺気立った目を蓮太郎に向ける。
「自分達がどれだけ花を傷つけたかまだわからないのか?」
蓮太郎は実際に花に危害は加えていない。
しかし透緒子や未都が花を虐げていることに対して何も言わなかったのは燈夜にとって罪に等しかった。
「しかし……!」
それでもまだ反論しようとする蓮太郎。
この場からつまみ出せと入り口に控えていた警護人に伝えようとしたとき。
「ふわぁ……。おはよう~」
ドアが開き一人の男性が欠伸をしながら入ってきた。
胸元が見えるほど着物を着崩し扇子で仰いでいる男性を見て燈夜は呆れたように息をつく。
「遅刻だぞ、遙」
「ごめん、ごめん~。朝まで遊んでてさ」
手を軽く振り全く反省した色を見せていないのは津郷遙。
貿易会社を経営する津郷家の長男で次期当主。
燈夜とは小学校から一緒で両親同士が仲の良い、いわゆる幼なじみだ。
しかし性格は正反対。
遙は次期当主に相応しいのか疑うほどの遊び人で女性の噂が絶えない。
遙は席につくとふと燈夜の瞳を見つめる。
「……へぇ。没落と異能の剥奪か。燈夜にしては甘い判断だね」
「勝手に人の心を読むな」
ジロリと遙を睨むが本人は飄々としながら頬杖をついている。
遙の異能は読心。
相手の瞳を見つめるだけで思考を読み取ることができる。
その力で取引相手や仕事の関係者を手玉に取っており人脈には厚い。
「この判断には花の思いもある。美藤家に与える罰はそれだけで良いと」
「ふーん」
「さ、西園寺様どうか異能だけは剥奪しないでいただきたい!」
蓮太郎が土下座をしながら二人の会話が落ち着いてきた頃を見計らって口を挟む。
そんな蓮太郎を燈夜と遙は冷酷な目で見ている。
「恨むのなら問題を放置した自分を恨め」
「見苦しいよ~。没落と異能の剥奪だけで済むんだ。美藤家の人間は命拾いしたね」
「そ、そんな……」
蓮太郎が力なく肩を落とし罰を言い渡したところで会合は終了となった。
「燈夜、この後暇?この時間から飲める店があるんだけど行かない?」
「行かない。これから仕事だ。それにたとえ非番で飲みに行く時間があっても家に帰る」
「あ、そっか。婚約者がいるんだっけ。いいな~俺もその子に会ってみたい」
「絶対駄目だ」
「え~何で?燈夜の幼なじみとして挨拶しておきたいし」
「それは建前でお前が花に手を出すのは分かっている」
女性の噂が絶えない遙が花に会わせたら必ず甘い言葉を囁くのは目に見えている。
幼い頃から共にいると見たくなくてもそういった場面は見てしまっていた。
しかも花も優しい分、押しに弱い。
燈夜の幼なじみに失礼なことをしてしまったらと真面目に考えてしまうだろう。
それに大切な婚約者に弟以外の異性を会わせたくない。
「手なんか出さないって!挨拶するだけだよ」
「遙、次の会合にも遅刻したらお前も罰を受けてもらう」
「ちょっと!話変わってるよ!?」
建物の中から外に出ると燈夜は止まっていた自動車に乗り込む。
すぐに走り出し小さくなっていく自動車を遙は呆気にとられたように見つめる。
見えなくなると少しだけ息を吐き口角を引き上げた。
「あいつがそんなに夢中になる女性なんてますます気になるな。ま、焦らなくてもいつか会えるか」
照りつける日差しを扇子で防ぎながら雲一つない青空を遙は見上げていた。
強い日差しが照りつけるある日、帝都にある議場に異能を所有する家の当主達が集まり会合が開かれていた。
議場に燈夜が入ると座っていた当主達は一斉に立ち上がる。
その中には美藤家の当主、蓮太郎もおり妻の透緒子とが犯した罪などに対して追求されるのを確実視しているのか顔を青ざめさせている。
燈夜はそんな蓮太郎を一瞥すると自席前に立ち口を開いた。
「これより定例会合を始める」
「はっ!」
立ち上がっていた他の当主達は声を揃え返事をし、お辞儀をした。
燈夜が座ると後に続くように全員が座り会合が始まった。
始まってしばらくは簡単な報告などが行われすぐに今日の本題であろう美藤家についての議題に移る。
「美藤家については皆知っているな?」
蓮太郎以外の全員が頷く。
ついに議題に上がってしまったと蓮太郎は先ほどよりも顔色を悪くし額から汗も出している。
そんな彼に目もくれず燈夜は話を続けた。
「私の婚約者である花に対する美藤透緒子の誘拐、暴行……。姉の未都は花の記憶の一部を消去した。それらの非道な行動を静観していた美藤家の現当主、蓮太郎も同罪」
皆からの視線が集まり耐えきれず蓮太郎は俯くしかなかった。
まだ花の本当の父親である貴之が生きていた頃、透緒子と蓮太郎は不倫関係にあった。
透緒子が変わってしまったのは花が生まれてから。
薄桜色の髪に強い嫌悪感を抱いていたが、せめて強い異能が目覚めればとその年齢がくるのを待っていた。
そして異能がないことを知ると性格は豹変し花を虐げてきた。
苛立ちを発散させるように身体が弱い貴之が床に伏せている間に外で遊び呆け、蓮太郎と出逢った。
蓮太郎も地位は低いが名家の出身で風の異能を持っている。
透緒子が周囲の反対を押し切り結婚をし美藤家へやって来た。
名高い美藤家の当主になれば権力や財力が全て手に入り優雅な生活が送れると思っていたがその夢は散っていった。
妻の透緒子や未都の行動、花が虐げられているのを蓮太郎が静観していたことが西園寺家の当主の逆鱗に触れ管理下に置かれることになった。
周囲の目も厳しく屋敷に住むのは苦しくなり今は地方の別荘に移っている。
しかし没落も時間の問題だろうと薄々分かっていた。
「よって美藤家は没落。異能も剥奪する」
冷たい声が議場に響き他の参加者達も納得しているように頷く。
異能者の中に力を奪う『剥奪』を行使できる者がいる。
異能者が重罪を犯し剥奪の刑に処される際に取り仕切る。
そんな彼らも滅多に力を行使する機会もなく久方ぶりの仕事だ。
「お、お待ちください!せめて異能は剥奪せずに……!」
異能まで取られてしまっては全て失うと焦った蓮太郎は席から立ち上がり燈夜に訴える。
没落しても異能があればまた事業などを起こした際に役に立つと思っていたがまさか剥奪されるとは思っていなかったのだ。
正しさと強さを兼ね備えた燈夜に異論、反論をする者などいない。
燈夜は殺気立った目を蓮太郎に向ける。
「自分達がどれだけ花を傷つけたかまだわからないのか?」
蓮太郎は実際に花に危害は加えていない。
しかし透緒子や未都が花を虐げていることに対して何も言わなかったのは燈夜にとって罪に等しかった。
「しかし……!」
それでもまだ反論しようとする蓮太郎。
この場からつまみ出せと入り口に控えていた警護人に伝えようとしたとき。
「ふわぁ……。おはよう~」
ドアが開き一人の男性が欠伸をしながら入ってきた。
胸元が見えるほど着物を着崩し扇子で仰いでいる男性を見て燈夜は呆れたように息をつく。
「遅刻だぞ、遙」
「ごめん、ごめん~。朝まで遊んでてさ」
手を軽く振り全く反省した色を見せていないのは津郷遙。
貿易会社を経営する津郷家の長男で次期当主。
燈夜とは小学校から一緒で両親同士が仲の良い、いわゆる幼なじみだ。
しかし性格は正反対。
遙は次期当主に相応しいのか疑うほどの遊び人で女性の噂が絶えない。
遙は席につくとふと燈夜の瞳を見つめる。
「……へぇ。没落と異能の剥奪か。燈夜にしては甘い判断だね」
「勝手に人の心を読むな」
ジロリと遙を睨むが本人は飄々としながら頬杖をついている。
遙の異能は読心。
相手の瞳を見つめるだけで思考を読み取ることができる。
その力で取引相手や仕事の関係者を手玉に取っており人脈には厚い。
「この判断には花の思いもある。美藤家に与える罰はそれだけで良いと」
「ふーん」
「さ、西園寺様どうか異能だけは剥奪しないでいただきたい!」
蓮太郎が土下座をしながら二人の会話が落ち着いてきた頃を見計らって口を挟む。
そんな蓮太郎を燈夜と遙は冷酷な目で見ている。
「恨むのなら問題を放置した自分を恨め」
「見苦しいよ~。没落と異能の剥奪だけで済むんだ。美藤家の人間は命拾いしたね」
「そ、そんな……」
蓮太郎が力なく肩を落とし罰を言い渡したところで会合は終了となった。
「燈夜、この後暇?この時間から飲める店があるんだけど行かない?」
「行かない。これから仕事だ。それにたとえ非番で飲みに行く時間があっても家に帰る」
「あ、そっか。婚約者がいるんだっけ。いいな~俺もその子に会ってみたい」
「絶対駄目だ」
「え~何で?燈夜の幼なじみとして挨拶しておきたいし」
「それは建前でお前が花に手を出すのは分かっている」
女性の噂が絶えない遙が花に会わせたら必ず甘い言葉を囁くのは目に見えている。
幼い頃から共にいると見たくなくてもそういった場面は見てしまっていた。
しかも花も優しい分、押しに弱い。
燈夜の幼なじみに失礼なことをしてしまったらと真面目に考えてしまうだろう。
それに大切な婚約者に弟以外の異性を会わせたくない。
「手なんか出さないって!挨拶するだけだよ」
「遙、次の会合にも遅刻したらお前も罰を受けてもらう」
「ちょっと!話変わってるよ!?」
建物の中から外に出ると燈夜は止まっていた自動車に乗り込む。
すぐに走り出し小さくなっていく自動車を遙は呆気にとられたように見つめる。
見えなくなると少しだけ息を吐き口角を引き上げた。
「あいつがそんなに夢中になる女性なんてますます気になるな。ま、焦らなくてもいつか会えるか」
照りつける日差しを扇子で防ぎながら雲一つない青空を遙は見上げていた。