女の子なら、ううん、男の子だって運命を感じる恋愛をしてみたいと思うよね。
 私もそう。
でも私はもう無理なのかもしれない。
 高校一年生のときだけ一緒のクラスだった草部凪君。二年生になってからは生物の時間くらいしか会えなかった。草部君の後頭部をそっと見つめるのが好きだった。部室が隣りなのは嬉しかった。時々聞こえる、草部君の低い声。話の内容までは分からなかったけれど、声がきけるのが嬉しかった。
 でも。
 卒業して、草部君は大学に。私は浪人することになった。
 大好きになれた生物も今はどうでもいい。草部君に会えない日は退屈で、死んでいる。私の知らない草部君が増えるのは悲しくて、もし彼が死んでもそれすら分からないかもしれないと思うと怖くなる。


 草部君に会いたいな。会いたい。


 あれ? あの後頭部は……。
 ある日の予備校帰り、見慣れた、でも最近見ることのなかった後ろ姿を見つけた。草部君?! 高校生のときの面影のある姿に、私の心臓は高鳴った。 そういえば、家が同じ方向なんだったっけ。一緒のバスに乗っているなんて、すごい偶然! 話しかけたいな。でも草部君は覚えてないかもしれないよね。
 どうしよう。もうすぐ降りなきゃいけない。
 ダメもとで、話しかけちゃえ!
「あのっ、草部君! 覚えてるかな? 高校一年のとき一緒のクラスだった宮本です。えっと、今、大学の帰りなの?」
 草部君は目を見開いて、
「あ……! うん。覚えてるよ。……みやもとさん……も大学の帰りなの?」
 と返事をしてくれた! しかも、覚えてくれていたっぽい! 嬉しい!
「ううん。私、浪人してるから、予備校の帰りなの」
「そうなんだ……。どこを狙ってるの?」
「S大。仏文やりたいんだ」
「S大? 俺、通ってるとこだ」
「え?!  草部君S大に行ってるの?!  うわあ、すごい偶然!」
 これって奇跡みたい! 頑張って受からなきゃ! 私のテンションは一気に浮上した。
「大学って楽しい?」
「楽しいよ。すごい自由。サークルとかバイトとかもできるし」
「何かしてるの?」
「うん。テニスサークル入ってる。部活より厳しくないし、他校の人とも交流できて楽しい」
「ふーん。サークルかあ。楽しそう。わたしも頑張って大学入ろう」
「うん。頑張りなよ」
「じゃあ、私、降りなきゃいけないから。えっと……またね」
 私の言葉に草部君は手を振って応えた。あ、バイト先、聞けなかったなあ。また会えるといいんだけど……。うーん……。 

 そうだ、朋に聞いてみようかな。S大だし、理系だから何か分かるかも!