「…これって、向き 逆じゃない?」


理仁は仰向けに寝転がっているけれど、普通はうつ伏せな気がする。不審そうにそう問いかけた私を理仁は「向きなんかどっちでもいーだろ」と一蹴する。

どっちでもいい事なんかない。腰をマッサージするのに、お腹の上に乗っても意味が無いと思うし、何よりこれはなかなか恥ずかしい。なんだか、いかがわしい事をしようとしている図に見えてしまう。

考えれば考えるほど羞恥心が煽られ、跨ったはいいもののそこから腰を下ろす事が出来ず、お尻は未だ浮いたままだった。


「なんか…やだ、この格好…」

「なにが」

「だって、なんか…」

「早く座れば?」


もごもごと口篭る私に、先を急かす理仁。下から私を見上げるその瞳は挑発的で、ここでようやくこれが理仁の狙いだと気づいた。

気づいたところでどうしようもない。こうなったら最後、理仁が満足するまでは逃れる事はできない。

そろそろと、なるべく体重が掛からないようにゆっくり腰を下ろす。手はどこに置けばいいか悩んだ末、そっと腰を掴んでみると、理仁の体がぴくりと揺れた。


「っおま、くすぐったいって」

「ええ?全然触ってないよ?」

「だからくすぐってーんだろ、掴むならちゃんと掴めや」

「こう?」

「っ、」


さわさわと脇腹を触っていたら、首裏に回った理仁の手にグイッと引き寄せられた。「きゃ」と短い声を上げてそのまま理仁の胸にダイブするように覆い被さる。


「…お前、わざとだろ」

「ふふふ。仕返しだよ」


クスクスと笑っている私を恨めしそうに見つめた理仁は、痛くない力で、ぎゅっと私の髪の先を掴む。仕返しの仕返しだ。


「んっ」


そのまま髪を引かれ、半強制的に唇が合わさった。

下からすくい上げるように、啄むように。何度も何度も繰り返されるキスは次第に深く、扇情的になっていく。

テレビから流れる雑音がどんどん遠のいて、やがて私たちが奏でるリップ音だけが鼓膜を占領する。

すっかり男の顔になった理仁の大きな手が、パジャマの裾からするりと入り込んでくる。


「…っ疲れてるんじゃ、ないの?」


上がっていく息の隙間でそう問えば、理仁はくすりと笑う。いたずらっ子のようなその笑顔は出会った時から変わらない。


「もう疲れ吹っ飛んだ」

「っうそだ」

「ほんとだって。それに、羽菜は別腹だし?」


微かに笑いを含んだ声を紡いだ唇が、頬にやさしく押し当てられる。


「…なにそれ」


精一杯の反論を紡いだ声に、荒くなった吐息が入り交じる。その逞しい身体にぎゅうっと抱きつき、覚悟するように目を閉じた。






『もう忘れちゃいました?』


きつく閉じた目蓋の裏で、昼間の美夕ちゃんの言葉が巡る。




―――忘れるわけがない。


この人と、

理仁と出会ったあの日のこと。



今でも昨日の事のように鮮明に頭の中に思い描ける。