ソファに座り適当についたままだった情報番組を見ているとガチャリとドアが開く音がした。テレビの液晶から視線を音がした方向に移せばシャワーを浴び終えた理仁がキッチンに向かうのが見えた。


「なあ、ビールもらっていい?」


続いて聞こえてきた言葉に「うん、いいよ」そう返せば、パタンと冷蔵庫の扉が閉まる音が響き、足音がこちらに近づいてくる。

さっそくビールの蓋を開けたらしい理仁は歩きながらその缶を煽っていた。

ごくごくと缶の中身を喉に流し込みながら理仁は私の隣に腰を下ろす。理仁の重みによって沈んだソファが、ギ、と低い音を鳴らした。


「何か夜食作ろうか?」


テレビを見ている横顔に控えめにそう声をかければ理仁は「いや、いい」と首を横に振った。


「腹いっぱいだわ」

「今日も接待だったの?」

「いや、今日は会社の同期と軽く飲んできた」


返ってきた言葉に「そっか」と相槌を打つ。隣に座る理仁は背もたれに深く背を預けて、うーんと大きく伸びをした。


「腰がだりい」

「大丈夫?寝っ転がる?」

「んー」


曖昧な返事を返した理仁は一度ビールの缶を煽ってから、立てた膝に頬を寄せるように小首を傾げ、私を見る。

立て膝なんて行儀が悪いよ、というお説教じみたセリフが頭を過ぎったけれど、にやりと細まった切れ長の瞳に捕まり、口を噤む。


「もう一声《ひとこえ》」

「えぇ……?」

「腰がだるくて死にそうな俺になんかしてくれることねえの?」


死にそうって……そんな大袈裟な。

そうは思いながらも、思考をフル回転させる。理仁は時々こうして無茶ぶりしてくるから、私はいつも理仁が望む答えを探すのに必死だ。

うーんうーんと頭を悩ませている私を理仁は終始ご機嫌そうに見つめながら、悠々と缶の中身を減らしていた。



「あ、」


数秒後、ピンと閃いた私は声を上げ、隣の理仁を見る。


「マッサージとか?」


私の口から出た言葉に、理仁はにんまりと口角を上げる。どうやらこの提案はお気に召したらしい。


「マッサージしてくれんの?」

「うん。効果は保証できないけど……」

「んじゃ、お言葉に甘えて」


そう言うが早いか、きっと空《から》になっているであろう缶をローテーブルの上に置いた理仁はソファの上にごろんと仰向けになる。

マッサージってどうやってするんだっけ?という疑問を抱えながら、寝そべっている理仁の上に跨ったところで、新たな疑問が頭に浮かぶ。