―――高校1年、秋。
高校に入学して半年という月日が経った。人見知りなりにあれから徐々に周りの子と打ち解け、行動を共にする友達も無事にでき、なかなか充実した高校生活を送っている。
そんな私には、ここ最近、日課となっている事があった。
(あ。また……)
昼休み。昼食を摂り終えたタイミングでチラリと教室の後方に目を移せば、男子生徒たちのグループが目に入った。そしてその中のひとりの男子生徒は、同じく昼食を摂り終えるや否や、早々に席を立つ。
そしてスタスタと教室を後にする姿を見届けた私は、徐に席を立った。
「羽菜、どこいくの?」
いきなり腰を上げた私を、友人2人に不思議そうな面持ちで見上げてくる。
そんな2人に「ちょっと…用事」と言葉を濁すように伝えると、2人は「えぇ、またぁ~?」と不服そうな声を揃えた。
「羽菜ってば最近そればっかじゃん」
「用事って一体なんなの?」
「いや、別に大した事じゃないんだけど……」
詰め寄られてドギマギする私に、2人はやれやれと言わんばかりに溜め息を吐き出した。
「どーせ聞いても教えてくんないんでしょ」
「うぅ……ごめん」
「まあいいよ。行ってらっしゃい」
これ以上 追求しても無駄だと悟ったらしい2人はヒラヒラと手を振ってくる。私もちいさく手を振り返しながら、足早に教室を後にした。
最近の私は、毎日決まった時間に教室を出ていく“ある人物”を追いかけて、ある場所に向かっている。
そのある場所とは、屋上だ。
屋上へと続くドアには南京錠が掛けられているから外には出られないと思っていたけど、実はその南京錠が壊れていると知ったのは、つい最近の事だった。
その場所へたどり着くと、いつものように南京錠を解錠する。ギィと古い音を立てて開いたドアの先には、鮮やかな青が広がっていた。
びゅう、と吹く風に髪とスカートが靡かれ、スカートが捲りあげられないように抑えながら歩いていくと、左側に塔屋が見えてくる。その塔屋の向こう側――出入口からは死角になっているところに、今日もその“ある人物”は座り込んでいた。
「望月くん」
その名前を呼べば、呼ばれた本人はゆるりとこちらに視線だけを寄越す。言葉にしなくともその表情は“また来たのかよ”と言いたげだった。
「学校内は禁煙だよ」
「……」
「そもそも未成年がそんなもの吸っちゃダメだって言ってるのに」
説教を垂れる私に、彼はちいさく溜め息を吐き出す。その息とともに、羽のような白い煙が空に向かって舞った。
昼休みの後半になると望月くんの姿はいつも教室にはなかった。不思議に思いながらも特に追求する事もなかったけれど、ある日の昼休み、トイレから帰っている時に屋上へと続く階段を上がっていく彼を見かけた。
屋上は鍵が掛けられているから出られないはずなのに……と不思議に思い、後をついて行った事で彼が此処で悪事を働いている事を知った。
知ってしまったからには放ってはおけない。
何度も此処に足を運んで注意をしているけれど、この有様だ。
“何をしようと俺の勝手だろ”と言わんばかりに彼はまた、紫煙を空に向かって燻らせた。