その声が辺りに響いたのは、入り組んだ細い路地に足を踏み入れようとした時だった。伸ばした手は空《くう》を切り、私が呼ばれた訳でもないのに後ろを振り返る。
「おー!やっぱ理仁じゃん!」
振り返った先にあったのは、見覚えのある顔だった。かつて同じ高校に通っていた男子生徒が3人。その3人ともが理仁と同じサッカー部に所属していた。
声をかけられた理仁も驚いているのか、少し目を見張り「おー」と間延びした声をこぼす。
「めっちゃ久しぶりじゃん。何年ぶり?」
「坂上の結婚式以来だから、3年ぶりとかじゃね?」
「まじか。もうそんな経つ?」
時間の流れって早いなー、なんて世間話を繰り広げていた彼らの視線が、理仁から私に移る。そして3人ともがこれまた驚きの表情を浮かべた。
「え!浅野サン!?」
「あ、うん。久しぶりだね」
「わー、まじかーお前らまだ続いてたんだ?すっげえ長くね?」
もう10年くらい?と聞かれ、「そのくらいかな」と笑顔を返す。
「なんかめっちゃ高校のとき思い出すな」
「分かる、懐かしすぎるわ。で、2人はもう帰んの?」
投げかけられた質問に理仁が「いや、今から飲みに行くとこ」と返すと「まじ!?」その中の一人が一際大きな声を出した。
「俺らもちょーど飲みに行くとこだったんだよ。せっかくだしこのままみんなで飲まねえ?」
その提案に理仁は「あー…」と曖昧な声を紡ぎながら私をちらりと横目で見遣る。私を気遣ってくれているのだと分かった。
大勢でわいわいと過ごすのはあまり得意じゃない。その上、この状況で女は私だけだ。きっと会話にも上手く入れないだろう。自分のその様子が容易く想像出来てしまった。
正直に言えば、あまり乗り気ではなかった。けれどこの場で断るという高度な技術もタフな心も持ち合わせてはいない。
“いいよ”という意味を込めて笑顔で頷くと、理仁は少し考えるように間を置いたあと、「じゃあせっかくだし行くか」と誘いを承諾した。