翌日、小金井の圧に負けて、俺は渋々ランチに出た。
編集なんて仕事をしていると昼の時間がずれることはよくある。

昼のピークも過ぎたころ、俺は小金井先導のもと、会社からすぐ近くのこじんまりとした店を訪れた。

『定食屋』と暖簾が掲げられて昔ながらの店なのかと思いきや、窓は大きなガラス張りでおしゃれ。ちぐはぐさが拭えないが、綺麗に改装されたであろう外観に、最近できた店なのだろうと予測する。

オフィス街にある店はしばしば入れ替わることがあり、最近まであった店が突然なくなったり知らぬ間に新店舗が出来ていたりとめまぐるしい。たぶん立地がいいから土地代は高いし、それなりの売り上げがないと立ち行かなくなるのだろう。

「最近できたお店で、入ってみたかったんですよ」

小金井がテンション高く盛り上がるので「一人で行けばいいじゃん」と呟けば、どうやら聞こえたらしく、キッと睨まれてしまった。

「……ちょっと入りづらかったんですよ」

「なんで?」

「だって、一見おしゃれなカフェみたいに見えて、暖簾はかかってるし名前はそのものずばりだし。どんなのかなーって思って」

だから俺を道ずれにしたわけだ。
小金井、なかなかあざとい奴だ。

「お前、仮にも編集の端くれだろ? それくらい取材と思って入れよ」

昨日言われたことを言い返してやった。
小金井はぷうっと頬を膨らませて「先輩に言われたくありません」と怒った。
なんでだよ、お前が先に言ったくせに。

小金井は放っておいて先に店に入る。
暖簾をくぐれば「いらっしゃいませ」と朗らかな声に迎えられ、人のよさそうな年配の女性がエプロンに三角巾をつけて寄ってきた。

「お二人様ね。お好きな席にどうぞ」

どうやら放っておいた小金井も俺についてきたらしい。
ちゃっかりお二人様と捉えられている。
俺たちは窓際の席に腰を下ろした。