遠い昔、朧杜の最初の訪問者が小さく呟いた言葉の意味が、最近になってようやくわかるようになった。『人間は哀しい生き物だ』と言った彼は、もう現世にはいない。この杜に訪れた人たちを見て、この言葉の真意を掴めるようになった。…人は、周りには声をかける。無責任で何の根拠もない、けれど確かな情を持った声を他人にかける。それなのに、自分自身に声はかけない。周りの声には敏感で、自分の悲鳴には気付かない。人間の、哀しくて愛しい性。そんな人間を、ずっと見てきた。周りに相談できずに『応え』を求める…死に神が口角を上げて舌なめずりをしている人をこの杜に案内する。それは義務感からやっているのではなくて、単なる私のきまぐれに過ぎない。人の子に比べたらあまりに長い、長い持て余す生命(いのち)をやり過ごすための余興。きまぐれ。それでも人の子は私に「ありがとう」と言ってくれるのだから、このきまぐれも案外、悪い物でもないな。