新菜ちゃんと休み時間を過ごしているとふわりと甘い匂いがした。
「あれって……」
新菜ちゃんが不思議がって廊下を見ていた。
私もつられて見るとそこには見たことある顔の少女がいた。
「……新堀さん?」
そう。廊下で人目を集めていたのは新堀夏奈だった。
彼女は学年三大美女の一人。
美月とメアリに並ぶ美しさを持っている。
誰かを探すかのように目をキョロキョロとしていた。
「……あっ!芽唯ちゃん!ちょっといい?」
まさかの私を見てそう言った。
「あの、私またなにかしちゃった?」
不安でたまらなくそう聞くと。
「あっ、全然違うの!……もう、あんなことはしないから……っ」
前に私は誘拐されたことがある。
その犯人を裏で操っていたのが新堀さんだ。
「そう、なら全然いいの。それでなにか用があって呼んだんでしょ?」
その後、放課後に一緒にお茶でも飲みに行こうと誘われた。
そして放課後。
「ご、ごめんね。急に。あと、夏奈でいいから」
夏奈ちゃんは眉を下げて笑った。
「ううん。それよりなにかあったの?」
「うーん。なにかあったというより、聞きたいことがあって」
粗相をしてしまった訳ではないようなので少し安心した。
「……自分の話になっちゃうんだけどね、憧れのモデルさんがいてその人みたいになりたくて芸能界に入ったの……この人」
そう言ってスマホで写真を見せてくれた。
「この人……知ってるかな?」
私は静かに頷く。
「夏奈葉。元々は親がファンでそこから名前をとって夏奈になったの」
夏奈葉。彼女は言わずと知れた大人気モデルでバラエティー番組やニュース番組など幅広く活躍した。
けれど、夏奈葉は人気絶頂の時、突然芸能界を引退したのだ。
それには日本中が驚き、大ニュースとなった。
「芽唯ちゃんを初めて見た時に思ったの……夏奈、この子どこかで見たことある気がするって」
私はよくわからず首を傾げた。
新堀さんとは今年初めて会ったというのに。
「本当のことを教えてよ。芽唯ちゃんは夏奈葉と関係あるんでしょ?」
なにを突然と言いたかったが、夏奈葉の名前を出すのも納得だ。
「私が夏奈葉の娘だって気づくなんて……」
「やっぱり。そうだと思ったけれど、本当に夏奈葉の娘なの?いつからって言われても疑問に思ったのは最近なの」
そう。私は正真正銘夏奈葉の娘だ。
証拠として小さいときに撮った家族写真を見せた。
「本当なんだね……見間違えるはずがないの。夏奈が夏奈葉を……」
夏奈葉ことお母さんが芸能界を引退した理由はいたってシンプル。
妊娠したからだ。
けれど、それを表には公表せず世間では体調不良と噂となり仕事のさせすぎと会社側が叩かれたそう。
お父さんから聞いた話がある。
『芽唯、お母さんはすごいんだよ』
『なにがすごいの?』
『お母さんはすごいモデルさんだったんだ』
『ふ~ん』
その時はなにもわからなかった。
お父さんはカメラマンだった。
お母さんの専属カメラマンだったそう。
『お母さんは綺麗だけじゃなかった。本当に努力家だった……って芽唯はまだわからないか』
お父さんは笑った。
お母さんのことを自慢げに話すお父さんは幸せそうだった。
「夏奈がキッズモデルとして撮影してたときにある方がいらしていたの」
大人たちはあえて言わなかったそう。
「その時に芽唯ちゃんがいたの」
お母さんは光の原石である夏奈ちゃんを一目見たくて撮影現場に行ったとのこと。
その時に私を連れて行っていたという。
「そうだったんだ……」
私は驚きでそれしか言えなかった。
「まあ、本題は夏奈葉のことじゃなの。本題は──芽唯ちゃんに一日モデルになってもらおうと思って!」
「え、えぇぇー⁉わ、私が⁉無理無理!」
「大丈夫!夏奈がいるもん!それに、夏奈葉の娘の芽唯ちゃんはかなりスターの原石の雰囲気が漂ってるの」
それは嬉しいことなのか。
「まあ、とにかく。スタジオ行こっ?」
これは逃げられない気がする。
「私でいいなら……」
そう答えると夏奈ちゃんは目をキラキラさせた。
「こんにちは~!」
夏奈ちゃんがスタジオにいる大人たちに挨拶をする。
「おっ。夏奈ちゃん。その子は?」
カメラマンらしき人が首を傾げる。
「夏奈葉の娘さん。芽唯ちゃんです。夏奈のお友達」
夏奈ちゃんは私の背中を押し、カメラマンの前に立つ。
「さ、斎藤芽唯です。お願いします」
スタジオにいる大人たちは目を点にした。
「夏奈ちゃん。……夏奈葉って、あの夏奈葉?」
「そうですよ。あの夏奈葉です。夏奈の憧れ」
夏奈ちゃんは言った。
「今日は芽唯ちゃんも一緒に撮影してもらってもいいですか?」
「ああ。わかったよ」
カメラマンは大きく頷いた。
「新堀夏奈ちゃん入りまーす!」
「……斎藤芽唯ちゃん入りまーす!」
夏奈ちゃんの次に私が呼ばれた。
「わぁ!芽唯ちゃんかわいい!」
少し恥ずかしかったが、すごく可愛い服を着せてもらった。
撮影が始まり、緊張が増してきた。
「芽唯ちゃん、リラックスしてー」
カメラマンさんが言った。
「ふふっ。芽唯ちゃん、大丈夫だよ?安心して?」
「あ、安心できないよ~!」
こんな状況で冷静でいられる方がすごいと思う。
撮影が終了し、制服にまた着替え、控室を出たところで夏奈ちゃんが待っていた。
「芽唯ちゃん今日はありがとね」
「ううん。私こそ」
私の少し前を歩いていた夏奈ちゃんは私の方にくるっと顔を向けた。
「あ、このこと鬼頭君には内緒だよ?」
夏奈ちゃんは唇に人差し指を当てた。
「どうして?」
私が聞くと夏奈ちゃんは少し首を傾げた。
「なんでって……おもしろそうだから?」
私はため息をついた。
家に帰ると俊君の顔が見えた。
「ただいま」
「……遅かったけど、男?」
なぜすぐにそうなるのか。
「違うよ。夏奈ちゃんと遊んでいたの」
夏奈ちゃんの名前を出すと俊君は目を見開いていた。
「新堀と?なにもされてない?」
「大丈夫だよ?夏奈ちゃんいい子だし」
俊君はため息をついた。
「あんなことされておいて?」
「確かにあれはやりすぎだったと思うけど、仲良くなったら可愛くていい子だったよ?」
俊君をそっと見上げると「わかった」と言って、夕食の準備をしに行った。
後日、休日珍しく俊君がゆっくりしていたのでリビングで一緒にいると俊君のスマホから通知音が鳴った。
俊君はスマホを見るなりすぐに家を飛び出した。
「え、ちょ、俊君⁉」
数分して家の扉が開いた。
「どこに行っていたの?」
俊君に聞くと、俊君は息を切らしてなぜかティーン向け雑誌を抱えていた。
「なに?それ」
「……芽唯。俺はなにも聞いてないけど?」
なんのことかと首を傾げると、俊君は雑誌を見せてきた。
「……夏奈のお気に入り、斎藤芽唯ちゃん……って、は⁉」
雑誌には先日夏奈ちゃんと撮った写真が載っていた。
「芽唯、どういうこと?さっき、新堀から連絡が来て急いで買ってきた」
「な、なんか夏奈ちゃんに誘われて……私が夏奈葉の娘だって気づいてたみたいで……」
私がさらっと夏奈葉の名前を出すと俊君は驚いて口をパクパクと動かしていて少し面白かった。
「夏奈葉の娘って?夏奈葉ってあの有名なモデル?」
俊君の質問が次々とやってくる。
「そうだよ……──」
私は俊君に事情を説明した。
すると俊君は納得の表情を見せた。
「わかったけど……全国に俺の芽唯が晒された」
そう言って少し不機嫌になっていた。
俊君が不機嫌になると対応が困るのであまり不機嫌になってほしくないのが本音だが、今はそんなことを言っていられない。
「あれって……」
新菜ちゃんが不思議がって廊下を見ていた。
私もつられて見るとそこには見たことある顔の少女がいた。
「……新堀さん?」
そう。廊下で人目を集めていたのは新堀夏奈だった。
彼女は学年三大美女の一人。
美月とメアリに並ぶ美しさを持っている。
誰かを探すかのように目をキョロキョロとしていた。
「……あっ!芽唯ちゃん!ちょっといい?」
まさかの私を見てそう言った。
「あの、私またなにかしちゃった?」
不安でたまらなくそう聞くと。
「あっ、全然違うの!……もう、あんなことはしないから……っ」
前に私は誘拐されたことがある。
その犯人を裏で操っていたのが新堀さんだ。
「そう、なら全然いいの。それでなにか用があって呼んだんでしょ?」
その後、放課後に一緒にお茶でも飲みに行こうと誘われた。
そして放課後。
「ご、ごめんね。急に。あと、夏奈でいいから」
夏奈ちゃんは眉を下げて笑った。
「ううん。それよりなにかあったの?」
「うーん。なにかあったというより、聞きたいことがあって」
粗相をしてしまった訳ではないようなので少し安心した。
「……自分の話になっちゃうんだけどね、憧れのモデルさんがいてその人みたいになりたくて芸能界に入ったの……この人」
そう言ってスマホで写真を見せてくれた。
「この人……知ってるかな?」
私は静かに頷く。
「夏奈葉。元々は親がファンでそこから名前をとって夏奈になったの」
夏奈葉。彼女は言わずと知れた大人気モデルでバラエティー番組やニュース番組など幅広く活躍した。
けれど、夏奈葉は人気絶頂の時、突然芸能界を引退したのだ。
それには日本中が驚き、大ニュースとなった。
「芽唯ちゃんを初めて見た時に思ったの……夏奈、この子どこかで見たことある気がするって」
私はよくわからず首を傾げた。
新堀さんとは今年初めて会ったというのに。
「本当のことを教えてよ。芽唯ちゃんは夏奈葉と関係あるんでしょ?」
なにを突然と言いたかったが、夏奈葉の名前を出すのも納得だ。
「私が夏奈葉の娘だって気づくなんて……」
「やっぱり。そうだと思ったけれど、本当に夏奈葉の娘なの?いつからって言われても疑問に思ったのは最近なの」
そう。私は正真正銘夏奈葉の娘だ。
証拠として小さいときに撮った家族写真を見せた。
「本当なんだね……見間違えるはずがないの。夏奈が夏奈葉を……」
夏奈葉ことお母さんが芸能界を引退した理由はいたってシンプル。
妊娠したからだ。
けれど、それを表には公表せず世間では体調不良と噂となり仕事のさせすぎと会社側が叩かれたそう。
お父さんから聞いた話がある。
『芽唯、お母さんはすごいんだよ』
『なにがすごいの?』
『お母さんはすごいモデルさんだったんだ』
『ふ~ん』
その時はなにもわからなかった。
お父さんはカメラマンだった。
お母さんの専属カメラマンだったそう。
『お母さんは綺麗だけじゃなかった。本当に努力家だった……って芽唯はまだわからないか』
お父さんは笑った。
お母さんのことを自慢げに話すお父さんは幸せそうだった。
「夏奈がキッズモデルとして撮影してたときにある方がいらしていたの」
大人たちはあえて言わなかったそう。
「その時に芽唯ちゃんがいたの」
お母さんは光の原石である夏奈ちゃんを一目見たくて撮影現場に行ったとのこと。
その時に私を連れて行っていたという。
「そうだったんだ……」
私は驚きでそれしか言えなかった。
「まあ、本題は夏奈葉のことじゃなの。本題は──芽唯ちゃんに一日モデルになってもらおうと思って!」
「え、えぇぇー⁉わ、私が⁉無理無理!」
「大丈夫!夏奈がいるもん!それに、夏奈葉の娘の芽唯ちゃんはかなりスターの原石の雰囲気が漂ってるの」
それは嬉しいことなのか。
「まあ、とにかく。スタジオ行こっ?」
これは逃げられない気がする。
「私でいいなら……」
そう答えると夏奈ちゃんは目をキラキラさせた。
「こんにちは~!」
夏奈ちゃんがスタジオにいる大人たちに挨拶をする。
「おっ。夏奈ちゃん。その子は?」
カメラマンらしき人が首を傾げる。
「夏奈葉の娘さん。芽唯ちゃんです。夏奈のお友達」
夏奈ちゃんは私の背中を押し、カメラマンの前に立つ。
「さ、斎藤芽唯です。お願いします」
スタジオにいる大人たちは目を点にした。
「夏奈ちゃん。……夏奈葉って、あの夏奈葉?」
「そうですよ。あの夏奈葉です。夏奈の憧れ」
夏奈ちゃんは言った。
「今日は芽唯ちゃんも一緒に撮影してもらってもいいですか?」
「ああ。わかったよ」
カメラマンは大きく頷いた。
「新堀夏奈ちゃん入りまーす!」
「……斎藤芽唯ちゃん入りまーす!」
夏奈ちゃんの次に私が呼ばれた。
「わぁ!芽唯ちゃんかわいい!」
少し恥ずかしかったが、すごく可愛い服を着せてもらった。
撮影が始まり、緊張が増してきた。
「芽唯ちゃん、リラックスしてー」
カメラマンさんが言った。
「ふふっ。芽唯ちゃん、大丈夫だよ?安心して?」
「あ、安心できないよ~!」
こんな状況で冷静でいられる方がすごいと思う。
撮影が終了し、制服にまた着替え、控室を出たところで夏奈ちゃんが待っていた。
「芽唯ちゃん今日はありがとね」
「ううん。私こそ」
私の少し前を歩いていた夏奈ちゃんは私の方にくるっと顔を向けた。
「あ、このこと鬼頭君には内緒だよ?」
夏奈ちゃんは唇に人差し指を当てた。
「どうして?」
私が聞くと夏奈ちゃんは少し首を傾げた。
「なんでって……おもしろそうだから?」
私はため息をついた。
家に帰ると俊君の顔が見えた。
「ただいま」
「……遅かったけど、男?」
なぜすぐにそうなるのか。
「違うよ。夏奈ちゃんと遊んでいたの」
夏奈ちゃんの名前を出すと俊君は目を見開いていた。
「新堀と?なにもされてない?」
「大丈夫だよ?夏奈ちゃんいい子だし」
俊君はため息をついた。
「あんなことされておいて?」
「確かにあれはやりすぎだったと思うけど、仲良くなったら可愛くていい子だったよ?」
俊君をそっと見上げると「わかった」と言って、夕食の準備をしに行った。
後日、休日珍しく俊君がゆっくりしていたのでリビングで一緒にいると俊君のスマホから通知音が鳴った。
俊君はスマホを見るなりすぐに家を飛び出した。
「え、ちょ、俊君⁉」
数分して家の扉が開いた。
「どこに行っていたの?」
俊君に聞くと、俊君は息を切らしてなぜかティーン向け雑誌を抱えていた。
「なに?それ」
「……芽唯。俺はなにも聞いてないけど?」
なんのことかと首を傾げると、俊君は雑誌を見せてきた。
「……夏奈のお気に入り、斎藤芽唯ちゃん……って、は⁉」
雑誌には先日夏奈ちゃんと撮った写真が載っていた。
「芽唯、どういうこと?さっき、新堀から連絡が来て急いで買ってきた」
「な、なんか夏奈ちゃんに誘われて……私が夏奈葉の娘だって気づいてたみたいで……」
私がさらっと夏奈葉の名前を出すと俊君は驚いて口をパクパクと動かしていて少し面白かった。
「夏奈葉の娘って?夏奈葉ってあの有名なモデル?」
俊君の質問が次々とやってくる。
「そうだよ……──」
私は俊君に事情を説明した。
すると俊君は納得の表情を見せた。
「わかったけど……全国に俺の芽唯が晒された」
そう言って少し不機嫌になっていた。
俊君が不機嫌になると対応が困るのであまり不機嫌になってほしくないのが本音だが、今はそんなことを言っていられない。