次の日、葵斗君とばったり会った。
 まあ、学校内だから会うのは当たり前か。
「あれ、芽唯ちゃん昨日、俊君大丈夫そうだった?昨日僕にメールが届いてさ危うく殺されるところだったよ」
 ははっと笑う葵斗君だがそれは本当に大丈夫だろうか。
「う、うん。大丈夫、でも、私もこれ以上俊君を嫉妬させたら──」
 私が話し始めると葵斗君は少し寂しそうな顔をした。
「もう、めめちゃんは僕のことなんて覚えてないよね──」
「え──?」
 『めめちゃん』と呼ぶ子は一人しかいなかった。
 まだ、お母さんが生きていて元気な頃に公園に連れて行ってもらった。
 七海たちが家に来たのは私が小学校に入学するタイミングだから、それより一年ほど前の話だ。
 お母さんが連れて行ってくれた公園は大きい公園ではなかった。
 小さくて人も全然いなかった。
 そんな中、一人の男の子が私に話しかけてくれた。
『──いっしょにあそばない?』
 とても綺麗な顔をした男の子だった。
 お母さんを見れば女神のような笑顔で。
『遊んであげたら?……この子と遊んでくれるの?』
 お母さんはその男の子に聞いた。
『うん!もちろん』
 そう言われ私は自然と足が前に出た。
 その後、男の子とお話した。
『あなたのおなまえはなぁに?』
 拙い私の言葉に男の子は笑顔で答えてくれた。
『あおだよ。そっちは?』
『めいだよ!よろしくね、あおくん!』
 そうだ。その男の子はあおくんと言っていた。
『めいちゃん……じゃあ、めめちゃんってよんでいい?』
『めめちゃん⁉いいよ、あおくんはおもしろいね!……』
 その後もずっと遊んでいたのだが、小学校入学を前にお母さんは亡くなってしまった。
 辛くてあおくんに会いたくて公園に行ったらあおくんはいつも通り遊んでいた。
 でも、そのあおくんの顔はすごく泣きそうだった。
『あおくん……?』
『め、めめちゃん……』
 あおくんは真剣な顔で私に近づいてきた。
『ねぇ、めめちゃん。ぼくとめめちゃんがあうのも、これでさいごなんだって』
 お母さんが亡くなったというのに、大好きだったあおくんにも会えなくなるなんて私はもう大泣きした。
『なっ、なんでぇ……?』
『ひっこすっておとうさんがいってた。ごめんね、めめちゃんとあそぶのたのしかったよ』
『ねぇ、めめちゃん。いつかまたあえたらこれを……こうかんしよ』
 そう言って渡されたのはユリの花が彫刻された綺麗なネックレス。
『なにこれ~?プリンセスみたーい!』
『これは、いつかあえたらわたすね。……バイバイ、めめちゃん』
 この時、気が付いた。
 私の初恋を奪ったのはあおくんだったんだと。
 そして、今私の目の前にいるのは葵斗君。
 葵斗君は私を見て、金色に輝くネックレスを見せた。
「そのネックレス……」
「そうだよ、めめちゃん」
「葵斗君は……あの時のあおくんだったの?」
「久しぶりだね、めめちゃん。僕のこと覚えてくれてたんだね……」
 葵斗君がつけている金色のネックレスは私につけてくれた。
 そして、私がつけていた銀色に輝くネックレスは葵斗君に渡した。
「葵斗君は……私が公園で遊んでた子って気づいてたの?」
「うん。僕がめめちゃんのことを忘れたことなんて一度もないよ」
 今思えば、超人気者である葵斗君が私に話しかけることなんてきっとなかったはず。
「そ、そっか……」
「めめちゃんは……僕のことを恨んでないの?」
「どうして?恨むことなんて何もないよ?」
「だって……めめちゃんとお別れした日、めめちゃんはとても悲しそうな顔をして僕に会って、それからすぐにお別れなんて……すごく残酷じゃないか」
 葵斗君は昔から優しい。
「あの時ね、お母さんが病気で死んじゃったの。お母さんと来た公園に行けばあおくんもいるし、お母さんとの過ごした日々が思い出せるかなって思って公園に行ったの」
 葵斗君はすごく驚いた顔をしていた。
「そうだったんだ。ごめんね、辛い時に一緒にいられないくて」
「あおくんは何も悪くない……!私はあおくんと遊べてとっても嬉しかったの」
 私は自然と笑みが零れた。
「よかった。もうこんな時間だ。また明日ね、めめちゃん」
「うん。バイバイ」
 温かい気持ちで家に帰った。
 家に帰ると俊君が待っていた。
「おかえり、芽唯」
「ただいま」
 すると俊君は私の首元を見て、ムッとした顔をした。
「どうかした?」
 私が聞けばすぐさま俊君は私を抱き寄せた。
「うぇ⁉な、なに?」
「……ネックレス、色変わってるのはなんで?それ、今売ってない物なはず」
 ああ。そういうことか。
「……そうだね、俊君の言う通り、これはもう売ってない」
「じゃあ、なんで芽唯が持ってるの?ずっと前に聞いた時は銀色の方しか持ってないって言ってたのに」
 私ってばなにをしているのだろう。
 あおくんが片方を持っているというのに。
「話せるとこまででいいけど、聞いてもいい?」
 私は覚悟を決め、俊君に全てを話した。
 私と葵斗君が幼馴染みだということ、このネックレスは元々葵斗君がくれた物だということ。
 全て話すと俊君は固まっていた。
「そうだったんだ」
 事情を知った俊君は私と葵斗君が話すのを少しは許してくれた。
「許したわけじゃないよ」
「えっ。許すって言ったじゃん!」
「葵斗と関わらせたくないが正直なところだよ」
 俊君の溺愛は止まりそうにない。