「いらっしゃい、芽唯」
「美月……お邪魔します」
鬼頭家にお邪魔するとたくさんのメイドさんが働いていた。
「芽唯様、お待ちしおりました。お嬢様、お紅茶はいかがなさいますか?」
セレナさんが言う。
「そうね……ついこの間お母様が買っていたものは?」
「承知いたしました。準備してきますね」
セレナさんが去って行ったと同時に美月が私を見た。
「私の部屋で少しお喋りでもしましょう?メアリもいますわ」
「うん……」
階段を上り美月の部屋に来た。
部屋に入れば外国のお城に住むお姫さまのような大きい部屋だった。
「そこらへんに座ってくれると嬉しいわ」
適当に座るとメアリが顔を出した。
「芽唯じゃん。どうもー」
「芽唯、どうかなさったの?暗い顔して、俊には連絡したから大丈夫よ」
美月とメアリがこちらを見てくる。
「じゃ、じゃあ……一つだけ聞きたいんだけど、俊君って婚約者がいるの?」
そう聞いた瞬間、気まずそうな雰囲気が流れた。
「……芽唯には伝えておいた方が良いのかしら。そうね、言ってしまえば婚約者はいるわ。でもね……家同士が決めたもの。いわゆる政略結婚。だから俊が望んでしたことではないわ」
美月の言葉にメアリも頷く。
「芽唯が家を飛び出した理由ってそれ?俊くんの婚約の話を聞いたから?」
「そう、だよ……二人は婚約者が誰か知ってるの?」
「もちろん。私は俊の姉ですもの」
「私もなんとなくパパから聞いてたかな」
それを聞いた瞬間、居たたまれなくなった。
「……っ」
バタンと音を立てて部屋を出た。
「芽唯……!」
メアリと美月の声が聞こえるけど、それどころじゃない。
ああ。なんで私ってこんなに皆に迷惑かけちゃうのかな。
「芽唯様⁉どうかなさりましたか?……このような無礼をお許しください」
セレナさんが私の腕を握る。
「わたくしでは役に立ちませんか?」
セレナさんが私の目を見て言う。
「美月たちにも相談できないんですよ……っ?」
「お嬢様たちに相談できなくても、大人であるわたくしなら解決できることがあるかもしれません。それに、俊様や美月お嬢様を一番近くで見てきた者ですので」
微笑むセレナさん。
「……セレナさんは俊君の婚約の話を知っていますか?」
「はい。……もしかして、それでお悩みになられていたのですか?」
見事の当ててくるセレナさん。
「そうなんです。でも、俊君からはそんな話一切なかったので」
「そうですね。わたくしが知っている限りではありますが、俊様の婚約は旦那様が決めたこと。ですので俊様自身が決めたことではありません。だから芽唯様には話さなかったのではないでしょうか」
そうなのかな。でも、私は俊君の婚約者をまだ知らない。
「セレナさんは俊君の婚約者が誰だか知っているんですか?」
「はい。もちろんです」
「なら、教えてくださ──」
「それは芽唯様ご自身が探すのですよ」
「え?」
セレナさんは女神のような笑みでこちらを見る。
「わたくしが教えてしまっては意味がありません。芽唯様が俊様にお聞きになればいいのですよ」
「でも、私はそんな勇気ありません……」
「芽唯様。芽唯様ならきっと大丈夫です。美月お嬢様やメアリ様もおっしゃっていました。芽唯様は英雄譚に出てくる英雄のようだと」
「私……頑張ってきます」
「はい。俊様は芽唯様を待っていますよ」
セレナさんに礼を言い、鬼頭家を出た。
「……っ!俊君!」
家に帰って来てすぐに大好きな人の名前を呼ぶ。
「芽唯……!良かった、無事で」
俊君にきつく抱きしめられる。
「あの、ごめんなさい。勝手に飛び出して」
「いいよ。鬼頭家にいたことは美月やセレナから聞いてるから。それで、俺が聞きたいのはなんで芽唯が家を飛び出したのかだよ」
私には勇気がある。
だから、ちゃんと言おう。
「あのね……この前、学校の子たちが俊君に婚約者がいるって言ってたの」
「は……?」
俊君が驚いたような顔をしていた。
「それで私は俊君のことが大好きだけど、結ばれないのかなって思ってずっと怖かった」
そこまで言うと私の瞳は涙で濡れていた。
「芽唯……」
「私だけが好きみたいで……好きすぎて、辛いよ……っ」
「俺の方が好き。てゆーか、愛してる。ごめん、辛い思いをさせて」
そんなことを言った俊君は甘いキスを落とした。
それでハッピーエンドかと思えば私の物語はそうではない。
「ううんっ。でも、俊君の婚約者って?私が知らない人?」
「いや、俺の婚約者は──」
一瞬、気まずそうにした俊君。
「成瀬朱里だよ」
「え──」
聞いた瞬間、頭がガンガン痛んだ。
「でも、明日朱里が芽唯に言いたいことがあるって言ってた。聞いてくれる?」
「うん……」
そして次の日、朱里ちゃんと話すことになった。
一対一で話すのって以外と難しい。
「ねぇ、芽唯ちゃん。昨日、俊から話を聞いたんでしょ?婚約者は私だって」
「うん。聞いたよ」
「でもね、俊は私との婚約を破棄したの」
俯いていた顔がバッと上がる。
「どういうこと……?」
「結婚とかって普通は愛があるからするものでしょ?」
「例外を除いてね」と付け足した。
「でも、政略結婚の場合は愛がない場合もある。私たちは今そんな状況。俊は鬼頭家という大荷物を背負ってる」
私は黙って話を聞くしかなかった。
「でも、愛がない結婚なんて鬼頭家を背負うのにもっと重荷になる。でも、愛があれば少しは変わるかもしれない。私たちはそう話し合って決めたの。芽唯ちゃん、俊を癒してあげられるそよ風になってくれる?」
朱里ちゃんはいつも不思議な子だけれど、こんなにしっかりした子なんだ。
「うん。ありがとう、朱里ちゃん」
「感謝しなきゃいけないのはこっち。本当にありがとう」
私たちは満面の笑みを浮かべた。
「美月……お邪魔します」
鬼頭家にお邪魔するとたくさんのメイドさんが働いていた。
「芽唯様、お待ちしおりました。お嬢様、お紅茶はいかがなさいますか?」
セレナさんが言う。
「そうね……ついこの間お母様が買っていたものは?」
「承知いたしました。準備してきますね」
セレナさんが去って行ったと同時に美月が私を見た。
「私の部屋で少しお喋りでもしましょう?メアリもいますわ」
「うん……」
階段を上り美月の部屋に来た。
部屋に入れば外国のお城に住むお姫さまのような大きい部屋だった。
「そこらへんに座ってくれると嬉しいわ」
適当に座るとメアリが顔を出した。
「芽唯じゃん。どうもー」
「芽唯、どうかなさったの?暗い顔して、俊には連絡したから大丈夫よ」
美月とメアリがこちらを見てくる。
「じゃ、じゃあ……一つだけ聞きたいんだけど、俊君って婚約者がいるの?」
そう聞いた瞬間、気まずそうな雰囲気が流れた。
「……芽唯には伝えておいた方が良いのかしら。そうね、言ってしまえば婚約者はいるわ。でもね……家同士が決めたもの。いわゆる政略結婚。だから俊が望んでしたことではないわ」
美月の言葉にメアリも頷く。
「芽唯が家を飛び出した理由ってそれ?俊くんの婚約の話を聞いたから?」
「そう、だよ……二人は婚約者が誰か知ってるの?」
「もちろん。私は俊の姉ですもの」
「私もなんとなくパパから聞いてたかな」
それを聞いた瞬間、居たたまれなくなった。
「……っ」
バタンと音を立てて部屋を出た。
「芽唯……!」
メアリと美月の声が聞こえるけど、それどころじゃない。
ああ。なんで私ってこんなに皆に迷惑かけちゃうのかな。
「芽唯様⁉どうかなさりましたか?……このような無礼をお許しください」
セレナさんが私の腕を握る。
「わたくしでは役に立ちませんか?」
セレナさんが私の目を見て言う。
「美月たちにも相談できないんですよ……っ?」
「お嬢様たちに相談できなくても、大人であるわたくしなら解決できることがあるかもしれません。それに、俊様や美月お嬢様を一番近くで見てきた者ですので」
微笑むセレナさん。
「……セレナさんは俊君の婚約の話を知っていますか?」
「はい。……もしかして、それでお悩みになられていたのですか?」
見事の当ててくるセレナさん。
「そうなんです。でも、俊君からはそんな話一切なかったので」
「そうですね。わたくしが知っている限りではありますが、俊様の婚約は旦那様が決めたこと。ですので俊様自身が決めたことではありません。だから芽唯様には話さなかったのではないでしょうか」
そうなのかな。でも、私は俊君の婚約者をまだ知らない。
「セレナさんは俊君の婚約者が誰だか知っているんですか?」
「はい。もちろんです」
「なら、教えてくださ──」
「それは芽唯様ご自身が探すのですよ」
「え?」
セレナさんは女神のような笑みでこちらを見る。
「わたくしが教えてしまっては意味がありません。芽唯様が俊様にお聞きになればいいのですよ」
「でも、私はそんな勇気ありません……」
「芽唯様。芽唯様ならきっと大丈夫です。美月お嬢様やメアリ様もおっしゃっていました。芽唯様は英雄譚に出てくる英雄のようだと」
「私……頑張ってきます」
「はい。俊様は芽唯様を待っていますよ」
セレナさんに礼を言い、鬼頭家を出た。
「……っ!俊君!」
家に帰って来てすぐに大好きな人の名前を呼ぶ。
「芽唯……!良かった、無事で」
俊君にきつく抱きしめられる。
「あの、ごめんなさい。勝手に飛び出して」
「いいよ。鬼頭家にいたことは美月やセレナから聞いてるから。それで、俺が聞きたいのはなんで芽唯が家を飛び出したのかだよ」
私には勇気がある。
だから、ちゃんと言おう。
「あのね……この前、学校の子たちが俊君に婚約者がいるって言ってたの」
「は……?」
俊君が驚いたような顔をしていた。
「それで私は俊君のことが大好きだけど、結ばれないのかなって思ってずっと怖かった」
そこまで言うと私の瞳は涙で濡れていた。
「芽唯……」
「私だけが好きみたいで……好きすぎて、辛いよ……っ」
「俺の方が好き。てゆーか、愛してる。ごめん、辛い思いをさせて」
そんなことを言った俊君は甘いキスを落とした。
それでハッピーエンドかと思えば私の物語はそうではない。
「ううんっ。でも、俊君の婚約者って?私が知らない人?」
「いや、俺の婚約者は──」
一瞬、気まずそうにした俊君。
「成瀬朱里だよ」
「え──」
聞いた瞬間、頭がガンガン痛んだ。
「でも、明日朱里が芽唯に言いたいことがあるって言ってた。聞いてくれる?」
「うん……」
そして次の日、朱里ちゃんと話すことになった。
一対一で話すのって以外と難しい。
「ねぇ、芽唯ちゃん。昨日、俊から話を聞いたんでしょ?婚約者は私だって」
「うん。聞いたよ」
「でもね、俊は私との婚約を破棄したの」
俯いていた顔がバッと上がる。
「どういうこと……?」
「結婚とかって普通は愛があるからするものでしょ?」
「例外を除いてね」と付け足した。
「でも、政略結婚の場合は愛がない場合もある。私たちは今そんな状況。俊は鬼頭家という大荷物を背負ってる」
私は黙って話を聞くしかなかった。
「でも、愛がない結婚なんて鬼頭家を背負うのにもっと重荷になる。でも、愛があれば少しは変わるかもしれない。私たちはそう話し合って決めたの。芽唯ちゃん、俊を癒してあげられるそよ風になってくれる?」
朱里ちゃんはいつも不思議な子だけれど、こんなにしっかりした子なんだ。
「うん。ありがとう、朱里ちゃん」
「感謝しなきゃいけないのはこっち。本当にありがとう」
私たちは満面の笑みを浮かべた。