夜が明けた。彼女は今日もいなかった。
朝はいつも通り鬱陶しいものだった。

"目が覚めた、どこへ行こう"なんて思えるわけも無いだろう。曲を聴いてふと思う。
眠ったまま消えてしまいたかった。
この世界に希望が欲しかった。助けて欲しかった。自分が世界で1番才能に恵まれた人間であれたら良かった。
私が素直だったら。彼女の想いを知れたら。彼女が、生きていたら。

彼女の命と引き換えに得られたものがあった

私の人生に自ら命を絶つという選択肢ができた。死ぬことで何を得られるのだろう。考えた。思考を、殺せるのだ。

自殺は悪だという言葉を鵜呑みにしていた私はなんと馬鹿だったのだろう、と今なら思える。

思考を捨てると思考を殺すとは訳が違うのに。

生きることを私は楽しめない側の人間なのだ。のらりくらり生きていただけだったが考える余地を彼女から与えられた。

私も彼女の考える境地に辿り着きたいと思った。思ってしまった。
死とは何だ。
後に引くにはもう遅かった。
盲目的に私は死を手に入れたくなってしまった。
彼女が風をきり地面に手を伸ばし死を掴んだ時、何を思ったのか。死んだらどうなるのか。地を掴んだと同時に地獄を掴むのか。いやはや、そこは天国なのか。この身で今すぐ確かめたい。
知りたい。その気持ちが私の胸を掻き立てる。私の人生の中でこのような高揚を感じたことはあっただろうか。
今までのどの試験問題より面白い。そして美しい。
そんな問題が目の前に降ってきたのだ。
私のような人間は人生で1つくらい面白いことをしなければならないだろう。それを彼女はいとも簡単にやってのけた。能天気で馬鹿な彼女の知っていることを私が知らないだなんておかしいのだ。

私は両親のひいたレールを歩いて生きてきた。錆びたレールの上を無心に走る私になんの価値があるのだろうか。
できないことが目の前に突きつけられると形容しがたい程の自己嫌悪に襲われた。真面目だけが取り柄で、優等生と呼ばれた私。
真面目は褒め言葉なのか?優等生がいるならお前らは劣等生じゃないのか?そんな事は言えなかった。だって言わないのが"真面目な優等生"だもの。
求められた人間を演じると数字がついた。
成績表の数字は5以外見たことがなかった。
5の並んだ1枚の紙に私の価値が表されている。
教師は馬鹿だと思った。
嘘のコーティングで包まれた私をみて理解した気になって。さぞ楽しい職業なんだ。
でも、でも。真面目に生きていない、劣等生のあいつの方がなんで楽しそうなんだ。私の方が楽しくなきゃ割に合わないのに、なんで?
そんな虚しい質問の答えを教師は私に教えてくれなかった。

そうだ。ずるいと思ったのだ。私は、彼らを羨んでいたのだ、そう思うと腑に落ちた。言葉遊びは自己満足かもしれない。しかしそれでいい。
私は彼女に置いていかれたのだ。

そして今までの代償を償う日々が始まった。

簡単にいえばいじめだ。クラスメイト達は元々私の態度が気に入らなかったらしい。
水をかけられ、教科書が隠され、机には至る所に悪魔のような言葉が描き殴られている。
「死ね」「消えろ」「望実ちゃんを殺したのはお前だ」
私はその言葉を見てもなにも思えなかった。クラスメイトはさぞ面白くなかっただろう。いくらいじめても嫌な顔1つしない女を気持ち悪いと思わない訳が無い。
私は机に書かれた記号達に使命を受けたような気になれた。

人気者な彼女が一目置いている目障りな女。
そして人気者の方が死んだのだ。
矛先は私に向くに決まっている。
いっそ殺してくれ
死んでしまいたかった、その一言に尽きる。
ただあいつらは人殺しにはなろうとしなかった。自分達には自分達の未来があるから、という理由なのだろうなと容易に想像ができる。はやく、死にたい。死んだように生きること程辛いことはないのだと、そう思った。
それでもまだ死の答えを出せていない私は今を生きているクラスメイトと同じ土俵に立っている、と突きつけられている気分だ。



正義を気取ったクラスメイト達や教師や家族が嫌いだ。警察なんてもってのほかだ。
心に沢山の棘がついた花を飼っている私はもっと嫌いだ。