今期最大!
 数々の書店で売上一位を総なめにしている超話題の一冊!
 表紙の担当はあの、世間をざわつかせた天才高校生
 「青に、染まる。」とは、一体どんな本?


 今や、この文字を見ない日はほとんど無かった。
 「青に、染まる。」はあのままGOサインが出て、色々ありながらもなんとか出版。
 初めは薄かった売上も、私のアカウントで宣伝をしたことが功を成したのか、気づけばぐんぐんと伸びていった。
 それと同時に鳩羽家の真実も明らかになったわけで、二重で世間は大騒ぎだった。
 
「僕ね、たまに、これでよかったのかな、って思う時があるんだ」
 ジョー先輩はふと、そう呟いた。
 放課後の美術室の中。誰もいなくなった部屋で、私とジョー先輩は二人で並んでいた。
「こんなに上手く行って、僕なりの、報復もできて、これで終わってもいいのかな、ってさ」
 先輩はそういうと、すぐそばの机に置かれたままのキャンバスを見つめた。
「透の絵はさ、本当にすごいや。表紙になった時ももちろん綺麗だったけど、本物とは比べ物にもならない」
 ジョー先輩は、そのキャンバスを掲げた。キャンバスには、空へと祈る少年少女とが描かれていた。
「ジョー先輩は、この先やっぱり、続けるんですよね。作家」
「実はそれ、考えてなかったんだ。これをつくるのに精一杯で」
「そうなんですか、なんだか、意外です」
「……でも、そうであれればいいなって、思ってるよ」
 ジョー先輩はそう言うと、キャンバスをおいて、私にニコリと笑いかけた。
「そうですね。私もそれがいいと思います」
 きっと、その先の未来で、私がジョー先輩の隣に立つことはない。
 元々、それだけの約束だったのだから。

「でも、一つ条件があるんだ」
「条件、ですか」
 ジョー先輩はそう言うと、私の手をぎゅっと掴んだ。
「透が、僕の本の表紙を飾ること。それ以外は、絶対に認めない」
 私は、放心した。
 私が、表紙を、飾る……?先輩の?
「僕さ、透がいないと、上手くできないって言うかさ、ほら、僕能天気だからさ」
 あの、えっと……と、ジョー先輩はもじもじと目を逸らした。

「あの、あのさ……、僕とさ、ずっと一緒に、いて、欲しいな、って」

「……言われなくても、分かってますよ。そんなこと」

 私は、ジョー先輩の手を握り返した。
 暖かいその手は、優しく柔らかく包み込む。

「私こそ、浮気したら、許しませんから。私、案外繊細さんですからね」
「透が?そうなの?」
「……もう、そのくらい読み取ってください」

 夕日が差し込む、冬の終わりの美術室。
 また、新しい季節が、巡ってこようとしている。