授業が終わっても、昨日真夜中まで某お隣さんが世話を焼いてくれるアニメを見ていた反動で俺はまだ顔をあげない。
「佐藤くん、起きないの~?」
「起きてなかったら聞こえないだろ」
話しかけてきたのはよく俺の世話を焼いてくれる、一之瀬結奈だ。俺は人と話すのは好きではないが、一之瀬は気を遣ってくれるし、キャラを作っているのかもしれないがいじった時の反応も正直可愛いと思う。
「むぅ……」
拗ねたような声を出している。可愛いと評価したのはこういう反応だ。
「まあまあ、わざわざ起こしてくれてありがとう」
「そうだよ、感謝してね!」
と勝ち誇ったような顔で偉そうに告げる一之瀬だが、そういった顔に慣れていないのか全くこなれた鬱陶しさを感じない。
「おう」
俺が答えると、一之瀬は去って行ってしまった。
一之瀬は俺と違い陽の者なので友達も多そうだし、席も俺の隣であるというわけではないので仕方のないことではあるのだが少し悲しい気分になってしまった。
一之瀬と話すだけで一日の間くらいは俺の機嫌がよくなる。
佐藤くんを起こしてみたけれど、何を話せばいいのかわからなくて私はすぐに立ち去った。
もうちょっと話したかったかな、とは思ってみても佐藤くんだってゲームに関することをいろいろと考えているらしいし、邪魔だろうから仕方のないことではあるんだけど、少し悲しい気分になってしまった。
次の授業が始まった。
私は、授業をあまり聞かない佐藤くんとは違って、授業はしっかり聞くタイプだ。
まあ佐藤くんの曰く、しっかり授業は聞いて自分なりにかみ砕いているのらしいのだけれど、外から見ていたら全くそういう風に感じない。
それはともかく授業を聞くタイプの私は、今回は考え事をしていた。
塾での学習相談。
講師が何気なく放った一言が、私の考え方に大きく影響を与えた。
「そんなに真に受けなくてもいいんじゃない?」
その人は間違いなく私に気を使って、心配してその言葉を放ってくれたのだと思う。だけれど、これまで多くの言葉を真に受けてきた私からすると、まるで生き方を変えろと言われたかのような――さすがにその言葉を、何も考えずに真に受けることはできなかった。
つまりその言葉は、人の言葉を信じすぎるなという意味合いが含まれているのだろう。それは確かに言っていることは正しいので、授業中にそのことについて考えるまでには至っている。
「おーい、一之瀬? 授業終わったよ?」
佐藤くんが話しかけてきた。
授業が終わったらしい。こんなに長く考え事をするだなんて私にしては珍しい。
「なんか考え事か? 栄養不足? 今日寝てない?」
考え事か、という質問から入る人は珍しいんじゃないだろうか。
「いや、まあなんでもないから……」
「なんでもないわけないだろ。それならボーっとすんなや」
確かに、と納得してしまう。がなんでもなくてもボーっと空を眺める人だっているし何もおかしくはないと思い返す。
「でも……」
「まあ、本当に何でもないのならいいんだよ」
余計なお節介をしてしまった……。本人が何でもないといってるならそれで何かあるわけない。
直前になんでもないわけないとか強気なことを言ってしまったから取り消すのに若干の勇気を要した。が、それを表情に出さずに平静を装う。
今もできているのかはわからないけれど、俺は少なくとも一之瀬の前ではクールキャラを演じていたい。
「佐藤くん、さっきは心配してくれてありがとう!」
さっきは嫌な感じて会話を中断したのにもかかわらず、心配してくれてありがとう、と感謝してくれる。一之瀬はやっぱりいい子だ。
「ああ、どうも」
ところが俺のコミュ力の欠如が原因で、せっかく一之瀬がお礼をしに来たのにもかかわらず感じ悪い返しになってしまった。
「むー、せっかく感謝の気持ちを伝えてあげたのに……」
本気で怒っているのではなく、冗談めかして拗ねているような表情で一之瀬が言った。
「ごめん、こういう場面どうやって返すべきかわからなくて」
「佐藤くん、頭は良いのに返し方はわからないんだね」
学校の勉強に対する成績と、コミュ力は比例しない。いわゆる勉強は無駄だってはっきりわかんだね。
頭が良い、という単語を聞いて昨日の記憶が蘇る。
俺は頭が良いのに特進クラスから落ちた。特進に残ることだけが価値ではないことはわかっているし、特進落ちが悔しいわけでもない。だけれども、特進落ちという事実は確実に俺の心を抉った 。
特進から落ちたということは少なくとも自分の実力が落ちたということを示しているのだろうし、自分の実力が落ちた一因として自らの努力不足が嘆かれる。
努力ができない人間は、人間性的に終わっているし、その人間に魅力というものは付属しえない。そもそも努力ができない人間は天才でもない限り結果を出せないので大した価値はない。
「佐藤くん? ごめん、私変なこと言っちゃったかな?」
「ああいや、そんなことはないよ。俺が勝手に深読みしちゃっただけだから。今度、こういう時の返し方とか教えてくれないかな?」
「勿論いいよ! じゃあ、3日後、終業式の後に午後1時市立公園の噴水集合でどうかな」
まさか一之瀬の方が提案してくれるとは思っていなかった。公園集合でどうやってコミュ力講座を行うのかという疑問はあるのだが、ともかく一之瀬と約束が決まったのでそれは置いておく。
「それでよろしく」
私、何か変なことを言って佐藤くんを困らせたのかもしれない。
佐藤くんは優しくはないのだけれど気づかいだけはできるので、私が佐藤くんを気づつけたことを気に病まないように勝手に深読みしただけだと言った可能性がある。
困らせてしまったのかもしれないが、結果的には佐藤くんと遊ぶ約束ができたので良かった。
「結奈ちゃん? 最近なんか窓の外をずっと眺めてない?」
それは恐らく、私が窓側の佐藤くんをずっと眺めているからだと思う。
「何~? 病み期か何かなの~?」
「向こうの景色が好きで……」
間違いではない。ただ景色の中に佐藤くんも含まれているというだけで……。
「佐藤くん、起きないの~?」
「起きてなかったら聞こえないだろ」
話しかけてきたのはよく俺の世話を焼いてくれる、一之瀬結奈だ。俺は人と話すのは好きではないが、一之瀬は気を遣ってくれるし、キャラを作っているのかもしれないがいじった時の反応も正直可愛いと思う。
「むぅ……」
拗ねたような声を出している。可愛いと評価したのはこういう反応だ。
「まあまあ、わざわざ起こしてくれてありがとう」
「そうだよ、感謝してね!」
と勝ち誇ったような顔で偉そうに告げる一之瀬だが、そういった顔に慣れていないのか全くこなれた鬱陶しさを感じない。
「おう」
俺が答えると、一之瀬は去って行ってしまった。
一之瀬は俺と違い陽の者なので友達も多そうだし、席も俺の隣であるというわけではないので仕方のないことではあるのだが少し悲しい気分になってしまった。
一之瀬と話すだけで一日の間くらいは俺の機嫌がよくなる。
佐藤くんを起こしてみたけれど、何を話せばいいのかわからなくて私はすぐに立ち去った。
もうちょっと話したかったかな、とは思ってみても佐藤くんだってゲームに関することをいろいろと考えているらしいし、邪魔だろうから仕方のないことではあるんだけど、少し悲しい気分になってしまった。
次の授業が始まった。
私は、授業をあまり聞かない佐藤くんとは違って、授業はしっかり聞くタイプだ。
まあ佐藤くんの曰く、しっかり授業は聞いて自分なりにかみ砕いているのらしいのだけれど、外から見ていたら全くそういう風に感じない。
それはともかく授業を聞くタイプの私は、今回は考え事をしていた。
塾での学習相談。
講師が何気なく放った一言が、私の考え方に大きく影響を与えた。
「そんなに真に受けなくてもいいんじゃない?」
その人は間違いなく私に気を使って、心配してその言葉を放ってくれたのだと思う。だけれど、これまで多くの言葉を真に受けてきた私からすると、まるで生き方を変えろと言われたかのような――さすがにその言葉を、何も考えずに真に受けることはできなかった。
つまりその言葉は、人の言葉を信じすぎるなという意味合いが含まれているのだろう。それは確かに言っていることは正しいので、授業中にそのことについて考えるまでには至っている。
「おーい、一之瀬? 授業終わったよ?」
佐藤くんが話しかけてきた。
授業が終わったらしい。こんなに長く考え事をするだなんて私にしては珍しい。
「なんか考え事か? 栄養不足? 今日寝てない?」
考え事か、という質問から入る人は珍しいんじゃないだろうか。
「いや、まあなんでもないから……」
「なんでもないわけないだろ。それならボーっとすんなや」
確かに、と納得してしまう。がなんでもなくてもボーっと空を眺める人だっているし何もおかしくはないと思い返す。
「でも……」
「まあ、本当に何でもないのならいいんだよ」
余計なお節介をしてしまった……。本人が何でもないといってるならそれで何かあるわけない。
直前になんでもないわけないとか強気なことを言ってしまったから取り消すのに若干の勇気を要した。が、それを表情に出さずに平静を装う。
今もできているのかはわからないけれど、俺は少なくとも一之瀬の前ではクールキャラを演じていたい。
「佐藤くん、さっきは心配してくれてありがとう!」
さっきは嫌な感じて会話を中断したのにもかかわらず、心配してくれてありがとう、と感謝してくれる。一之瀬はやっぱりいい子だ。
「ああ、どうも」
ところが俺のコミュ力の欠如が原因で、せっかく一之瀬がお礼をしに来たのにもかかわらず感じ悪い返しになってしまった。
「むー、せっかく感謝の気持ちを伝えてあげたのに……」
本気で怒っているのではなく、冗談めかして拗ねているような表情で一之瀬が言った。
「ごめん、こういう場面どうやって返すべきかわからなくて」
「佐藤くん、頭は良いのに返し方はわからないんだね」
学校の勉強に対する成績と、コミュ力は比例しない。いわゆる勉強は無駄だってはっきりわかんだね。
頭が良い、という単語を聞いて昨日の記憶が蘇る。
俺は頭が良いのに特進クラスから落ちた。特進に残ることだけが価値ではないことはわかっているし、特進落ちが悔しいわけでもない。だけれども、特進落ちという事実は確実に俺の心を抉った 。
特進から落ちたということは少なくとも自分の実力が落ちたということを示しているのだろうし、自分の実力が落ちた一因として自らの努力不足が嘆かれる。
努力ができない人間は、人間性的に終わっているし、その人間に魅力というものは付属しえない。そもそも努力ができない人間は天才でもない限り結果を出せないので大した価値はない。
「佐藤くん? ごめん、私変なこと言っちゃったかな?」
「ああいや、そんなことはないよ。俺が勝手に深読みしちゃっただけだから。今度、こういう時の返し方とか教えてくれないかな?」
「勿論いいよ! じゃあ、3日後、終業式の後に午後1時市立公園の噴水集合でどうかな」
まさか一之瀬の方が提案してくれるとは思っていなかった。公園集合でどうやってコミュ力講座を行うのかという疑問はあるのだが、ともかく一之瀬と約束が決まったのでそれは置いておく。
「それでよろしく」
私、何か変なことを言って佐藤くんを困らせたのかもしれない。
佐藤くんは優しくはないのだけれど気づかいだけはできるので、私が佐藤くんを気づつけたことを気に病まないように勝手に深読みしただけだと言った可能性がある。
困らせてしまったのかもしれないが、結果的には佐藤くんと遊ぶ約束ができたので良かった。
「結奈ちゃん? 最近なんか窓の外をずっと眺めてない?」
それは恐らく、私が窓側の佐藤くんをずっと眺めているからだと思う。
「何~? 病み期か何かなの~?」
「向こうの景色が好きで……」
間違いではない。ただ景色の中に佐藤くんも含まれているというだけで……。