「今日もランチ頂いても良いですか?」
「もちろん、どうぞ」
 二人はそんな会話を交わすと有栖はカウンター席に座る。

 店内はカウンター席が五つに、テーブル席が四人掛けが三つと二人掛けが二つ。大きすぎず、小さすぎない落ち着いた雰囲気の良いお店だ。ただ、この店が人気なのはマスターの高本だったりする。
「相変わらず男前ですね」
「はい、よく言われます」
 有栖のお世辞に高本は笑顔で返す。それを受けて有栖は苦笑いを返した。
 彼女は一応はお世辞という建前のつもりだが、事実、高本は美青年だ。中性的な顔立ちであり、年齢は不詳だけど、おそらく二十代後半と若く見える。水色と白が混ざったような美しい髪はアシンメトリーで片方は目と耳が出るぐらいの短さで、もう片方は目を隠すように少し長い。
 更に性格も優しく、人当たりも良く、コミュニケーション能力も高い、とくれば男女問わず人気がありモテる。それがこの店の人気の一つだったりする。
「今日のランチは何ですか?」
「ハンバーグプレートです。サラダとスープも付いてます」
「じゃあ、それにコーヒーもプラスで」
「食後でいいですか?」
「はい、それでよろしくお願いします」
 注文を終えると高本は準備を始める。
 有栖としてはこの店のコーヒーも食事もかなりレベルが高いと思っている。だから、高本の顔が評価の大部分を占めていることが勿体ないと感じていた。
 もちろん、有栖も一人の女性だ。高本が美青年だとは思う。性格も良いと思う。だけど――何故か彼女は、高本が常に誰にも優しく、笑顔を見せているのに目が笑っていないように思えるのだ。その違和感……どこか得体の知れなさが――あるような気がする。
 ――まぁ、悪い人ではないと思うけどね。
 有栖はこの店と高本のことを気に入っている。彼がどんな人物であれ、自分が業務上で相手にすることがなければ、それだけで充分だった。