時刻は十四時。有栖はオフィスを出て、昼食を摂る為に一つの店に向かっていた。大体の店のランチタイムはこの時間になると終わってしまうが、彼女はあえてこの時間帯にその店に向かっていた。
理由は簡単だ――優遇してくれるからだ。彼女はそういった特別扱いをあまり好まないが、その店の好意に甘えている。代金はちゃんと払っているし、コーヒーも一杯多めに頼んだり、と自分なりにその好意に応えているつもりだ。
その店とそんな関係になったのも何かの縁だし、何よりもその優遇が有栖にとっては非常に魅力的なものだったりするからだ。
「……甘えてるだけなんだけどね」
そう呟いて、有栖はその店の前で立ち止まる。
白い外壁に外光が差し込むように備え付けられた窓、無垢の木の看板とドアがオシャレな四角い建物のカフェ。ランチタイムは十四時までで一度閉まり、十八時以降はバーに切り替わって営業している。少し変わった業務形態だが、ここのマスターいわくバーの方が稼ぎが良く、カフェ・ランチはちょっとした小銭稼ぎだ、と有栖は聞いたことがある。
そして、今の時間帯はランチタイムは終了し、店のドアにはクローズの表示が掛けられている。そのドアのノブに有栖は手を掛けると、
「すいません」
そう言って、何の抵抗もなく開くドアに少しだけ隙間を作って顔だけ出して、声を掛ける。
「あぁ、有栖さん。いらっしゃいませ」
彼女と目が合った、カウンターに立っているこの店のマスター――高本 彦(たかもと げん)がグラスを磨きながら笑顔で迎え入れてくれた。
理由は簡単だ――優遇してくれるからだ。彼女はそういった特別扱いをあまり好まないが、その店の好意に甘えている。代金はちゃんと払っているし、コーヒーも一杯多めに頼んだり、と自分なりにその好意に応えているつもりだ。
その店とそんな関係になったのも何かの縁だし、何よりもその優遇が有栖にとっては非常に魅力的なものだったりするからだ。
「……甘えてるだけなんだけどね」
そう呟いて、有栖はその店の前で立ち止まる。
白い外壁に外光が差し込むように備え付けられた窓、無垢の木の看板とドアがオシャレな四角い建物のカフェ。ランチタイムは十四時までで一度閉まり、十八時以降はバーに切り替わって営業している。少し変わった業務形態だが、ここのマスターいわくバーの方が稼ぎが良く、カフェ・ランチはちょっとした小銭稼ぎだ、と有栖は聞いたことがある。
そして、今の時間帯はランチタイムは終了し、店のドアにはクローズの表示が掛けられている。そのドアのノブに有栖は手を掛けると、
「すいません」
そう言って、何の抵抗もなく開くドアに少しだけ隙間を作って顔だけ出して、声を掛ける。
「あぁ、有栖さん。いらっしゃいませ」
彼女と目が合った、カウンターに立っているこの店のマスター――高本 彦(たかもと げん)がグラスを磨きながら笑顔で迎え入れてくれた。