「――ありがとうございました」
「おう、不服そうでなによりや」
 一色は有栖の表情を見て、笑いながらそう言った。彼女は納得しないで完成したドキュメントを上書き保存し、閉じる。
「それを提出したら晴れて謹慎のスタートや。まぁ、自宅で謹慎とかやなくて現場に出られんだけやけど。見回りとか事務仕事とか頑張りや」
「罰ゲームをして更に罰ゲームって感じですね」
「自己責任やろ」
「自分は間違ったことはしてません」
 有栖の勤め先は治安維持を目的とする――『ユースティティア』という組織だ。略称で市民からはユース、と呼ばれている。警察と対立する立場ではあるが、治安を乱し、悪を確保、制裁する、という点では似てはいる。今回、彼女が始末書を書く必要になったのは、とある事件――暴走族が好き勝手に道路を暴走する情報を事前に取得。組織はそれを未然に防ぐことが目的だった。
 結果は成功。だけど、組織の予想外の経緯での成功だった。有栖は説得を試みる担当だったが、説得をしたところ暴走族の一部は最初は嘲笑。引き続き、説得。嘲笑から苛立ちへ。まだ、説得。暴走族は激怒し有栖に殴りかかった。これが彼女にとっての限界だった。
 ものの十数分で有栖は暴走族を格闘で制圧。今回は説得による未然の防止が目的だったので結果は成功でも、有栖は命令違反ということで始末書と謹慎処分を受けることになった。
「間違ったことやないけど、正しくもないやろ。違反は違反や。上長も有栖の行動に一定の理解はしとるけど、それでも何かしらの処分をせんことには示しがつかんからな」
「面倒くさいですね」
「面倒くさいのが社会ってもんや」
「わざわざ説教する為に戻って来たんですか?」
 一色が現在進行形で案件に従事していることを有栖は知っていた。本来なら現場や情報収集で外にいるのが当然で、昼食もそのまま外で食べて、わざわざオフィスに戻ってくる必要もない。
「いや、有栖の冷やかしや」
「帰ってください」
「冗談や」
「自分、冗談は通じないんで」
「余裕ないなぁ。まぁ、冗談はここまでにして……有栖にお願いがあるんや」
「お願い?」
「どうせ暇やろ? ちょっと話、聞いてや」