「後悔させてやるよ」
そう言うと鮫島は大きく腕を振りかぶり、殴りかかる。
「くっ!」
大振りなので避けるのは余裕だ、と有栖は思っていたがスピードが速かった。少し判断が遅れた分、腕によるガードに切り替えたが――
「やばっ!」
鮫島の拳が自身の腕に触れた瞬間、有栖はその重さ、威力を察した。まともに受けるとガードごと吹き飛ばされてダメージが生じる、と感じた彼女は咄嗟に受け流す。
「やるじゃん! じゃあ、これは?」
鮫島は楽しそうに左フックを放つ。これを有栖はダッキングで避ける。そこに今度は蹴りが真正面から放たれた。避けることが出来ずに有栖は腕を交差させ、受け止めるがその威力によって後方へと弾き飛ばされる。地面から足が離れたので着地をするが、勢いは殺しきれず滑り、二人の間に距離が生まれたところで止まる。
「痛っ……」
有栖は腕の痺れを感じながら、鮫島を睨む。相手は相変わらず下品な笑みを浮かべている。
「いいね、いいね。こりゃ長く楽しめそうだ」
まるで玩具を見つけた幼児のように鮫島は拳を握りながら近付いてくる。その向こうにいる結城と姫野も勝ち誇った笑みを見せている。防戦一方だった有栖を見て安堵しているのだろう。
「悪いけど、長引かせるつもりはない」
痺れる腕を振って、手を握ったり開いたりを繰り返し、機能が正常かを確認すると有栖も一歩近付く。
「まだ余裕がありそうだな」
「実際、余裕なのよ」
「あっそ、死ね」
鮫島の右ストレートが先程と同様の速さで放たれる。そのスピードは確かに速いが、さっき以上ではない。有栖が少々対応が遅れたのは想定より速かったからだ。だけど、それはさっきの攻防で既に理解し、修正した。彼女には充分に対応できる速度だ。
「なっ!」
有栖が防御でも後方に退くでもなく、前に踏み込んだことに鮫島は驚いた。彼女は彼の拳をヘッドスリップで避けるとそのままステップイン。斜め方向から抉るように左の拳を鮫島のボディにめり込ませた。
「がはっ!」
カウンターで入ったその一撃は鮫島の胃液を逆流させ、呼吸を強制的に止めた。がくり、と彼の膝が落ちる。
「え?」
すかさず頭に手を回して、有栖の膝蹴りが顔面に炸裂する。そして、動きを止めることなく、後方に仰け反った彼の後ろに回るとチョークスリーパーで首を締め上げた。
「ぐぎぎ……」
鮫島に完全なチョークスリーパーが決まった。だが、これはスポーツではない。タップをしたところで解除してくれるわけでもない。
呼吸ができなくなり、視界に白いモヤが広がってきていた。このままでは負ける――鮫島は必死で逆転の方法を思案した。
「まだ……だ……」
倒れそうになった鮫島が上体を起こす。彼が土壇場で考えついたのは有栖との体格差だ。鮫島が立ち上がれば、有栖は彼の首にぶら下がる形になる。そのまま後方に勢いよく倒れれば押しつぶすことも可能だ。だから、彼は――力を振り絞り、膝を伸ばし、立ち上がろうとした。
「残念」
その瞬間、有栖のささやきが耳に響いた。彼女は別にそのまま締め落とそうとは考えていなかった。寧ろ、その次が決め手だった。鮫島の行動を予測しており、立ち上がろうとした勢いを利用し、そのまま後方へとジャーマンスープレックス――首を絞めたまま投げる危険な技であるスリーパースープレックスだ。彼女は綺麗なブリッジをし、鮫島の身体は弧を描き、首を絞められたまま頭が地面へと叩きつけられた。
衝撃と更に絞められた首により、鮫島は完全に意識を失った。
「はい、オシマイ」
そう言った有栖は、鮫島が呼吸をしていることを、一応確認しておいた。
そう言うと鮫島は大きく腕を振りかぶり、殴りかかる。
「くっ!」
大振りなので避けるのは余裕だ、と有栖は思っていたがスピードが速かった。少し判断が遅れた分、腕によるガードに切り替えたが――
「やばっ!」
鮫島の拳が自身の腕に触れた瞬間、有栖はその重さ、威力を察した。まともに受けるとガードごと吹き飛ばされてダメージが生じる、と感じた彼女は咄嗟に受け流す。
「やるじゃん! じゃあ、これは?」
鮫島は楽しそうに左フックを放つ。これを有栖はダッキングで避ける。そこに今度は蹴りが真正面から放たれた。避けることが出来ずに有栖は腕を交差させ、受け止めるがその威力によって後方へと弾き飛ばされる。地面から足が離れたので着地をするが、勢いは殺しきれず滑り、二人の間に距離が生まれたところで止まる。
「痛っ……」
有栖は腕の痺れを感じながら、鮫島を睨む。相手は相変わらず下品な笑みを浮かべている。
「いいね、いいね。こりゃ長く楽しめそうだ」
まるで玩具を見つけた幼児のように鮫島は拳を握りながら近付いてくる。その向こうにいる結城と姫野も勝ち誇った笑みを見せている。防戦一方だった有栖を見て安堵しているのだろう。
「悪いけど、長引かせるつもりはない」
痺れる腕を振って、手を握ったり開いたりを繰り返し、機能が正常かを確認すると有栖も一歩近付く。
「まだ余裕がありそうだな」
「実際、余裕なのよ」
「あっそ、死ね」
鮫島の右ストレートが先程と同様の速さで放たれる。そのスピードは確かに速いが、さっき以上ではない。有栖が少々対応が遅れたのは想定より速かったからだ。だけど、それはさっきの攻防で既に理解し、修正した。彼女には充分に対応できる速度だ。
「なっ!」
有栖が防御でも後方に退くでもなく、前に踏み込んだことに鮫島は驚いた。彼女は彼の拳をヘッドスリップで避けるとそのままステップイン。斜め方向から抉るように左の拳を鮫島のボディにめり込ませた。
「がはっ!」
カウンターで入ったその一撃は鮫島の胃液を逆流させ、呼吸を強制的に止めた。がくり、と彼の膝が落ちる。
「え?」
すかさず頭に手を回して、有栖の膝蹴りが顔面に炸裂する。そして、動きを止めることなく、後方に仰け反った彼の後ろに回るとチョークスリーパーで首を締め上げた。
「ぐぎぎ……」
鮫島に完全なチョークスリーパーが決まった。だが、これはスポーツではない。タップをしたところで解除してくれるわけでもない。
呼吸ができなくなり、視界に白いモヤが広がってきていた。このままでは負ける――鮫島は必死で逆転の方法を思案した。
「まだ……だ……」
倒れそうになった鮫島が上体を起こす。彼が土壇場で考えついたのは有栖との体格差だ。鮫島が立ち上がれば、有栖は彼の首にぶら下がる形になる。そのまま後方に勢いよく倒れれば押しつぶすことも可能だ。だから、彼は――力を振り絞り、膝を伸ばし、立ち上がろうとした。
「残念」
その瞬間、有栖のささやきが耳に響いた。彼女は別にそのまま締め落とそうとは考えていなかった。寧ろ、その次が決め手だった。鮫島の行動を予測しており、立ち上がろうとした勢いを利用し、そのまま後方へとジャーマンスープレックス――首を絞めたまま投げる危険な技であるスリーパースープレックスだ。彼女は綺麗なブリッジをし、鮫島の身体は弧を描き、首を絞められたまま頭が地面へと叩きつけられた。
衝撃と更に絞められた首により、鮫島は完全に意識を失った。
「はい、オシマイ」
そう言った有栖は、鮫島が呼吸をしていることを、一応確認しておいた。