現れた男達を有栖は観察する。背は疎らだが長身はいない。手にナイフを持っているのが二人、金属バットが三人。男達はじりじりと近付いてきていた。
「おーい、今なら土下座すれば許してやるよ?」
「そう? そっちが土下座しても自分は許さないけど?」
 そう言って、有栖は手に持っていた硬式ボールを軽く上に投げて、またキャッチする。その態度には余裕があり、現状に焦りは見えない。
「はいはい、余裕ぶってろ。おい、その女、潰せ」
 結城の合図でまずナイフを持った男の一人が走って来る。ナイフの切っ先は有栖の腹部を狙っていた。近づき、近づき、その距離が縮まったとき――ドスッ、という音が鳴った。男がニヤリと笑うが、その手の違和感に表情を強ばらせた。
「残念」
 有栖がそう言うと手を顔まで上げる。そこにはナイフが突き刺さったボールが収まっていた。そのまま相手の腕を捻り上げると、男の関節が悲鳴を上げ、思わずナイフから手を離した。そのとき男は顔を上げたが、そこに有栖の左拳が炸裂する。鈍い音と共に男が後方に吹き飛び、気を失った。
「まず一人」
 そう言った有栖に続けて金属バットを持った男が二人、襲ってきた。
 最初にバッドを振り下ろした攻撃を有栖は受け流す。その男の背中を押して、距離を離すと続けて襲ってきた男がバットを頭上に振りかぶっていたので、そのがら空きの胴体に回し蹴りを一撃。みぞおちに深くめり込むと男は前のめりになったので側頭部に蹴りを叩き込む。男が回るように倒れると、次に先程後方へ受け流した男が背中へとバットを振り下ろしてきたので、ステップで避けて半回転。そのままバックハンドブローを顎に直撃させると、男はがくりと膝から崩れ落ちた。
「二人、三人……あれ?」
 残りの二人も勢いで来るかと思ったが、間合いを取っているので有栖は拍子抜けした。単調に突っ込んで来てくれると彼女としても楽だったのだが、さすがに警戒されたらしい。
 男二人はナイフと金属バットを構えて、有栖を挟み込むようにじりじりと円を描くように、一歩、一歩、横に動く。
「そういうのはチームワークがあってこその動きよ。無駄だって」
 有栖の忠告は的を得たものだが、当然ながら響かない。
「死ね!」
 まずはナイフを持った男が有栖の背中を突き刺そうとする。しかし、それを避けるとその動作を見てから金属バットを持った男が横から凶器を振った。
 有栖はそれをしゃがんで避けると、そのまま水面蹴りで足払い。男は容易く尻餅を着いた。有栖は素早く立ち上がると、一歩踏み込んだあと、男の顔面を踏み台にして跳ぶ。踏み台となった男が後頭部を地面に叩きつけられると気を失った。そして、有栖はそのままナイフを持った男の顔面に跳び蹴りを炸裂させる。鼻血を出しながら後方へ吹っ飛び、その男も倒れた。
「はい、おしまい」
 呼吸を乱すことなく、有栖はそう言うと服に付いた土煙の汚れを払ってみせた。