数分後、有栖は目的地である廃工場にたどり着いた。
 平地にあるその建物は大きな直方体に三角屋根が乗っているシンプルな構造だった。建物の大きさ的には二階があっても変ではないが、実際は高天井のワンフロア。地面はコンクリートで同素材の柱が規則正しく並び、天井にはダクトが蛇のように這っている。
 有栖がそのことを知っているのは、この場所はよく不良の溜まり場になったり、喧嘩が行われたりするので、パトロールで見に来ることがあるからだった。以前に来たときよりも壁には錆が浮き出て、剥がれている箇所も散見される。帰る可能性の低い主人を待つようで健気にも感じるが、近所の住民からは壊れるのが怖い、不良が集まるのが嫌だ、と厄介者扱いだ。
「さて、暴れますか」
 そう言って、有栖はネクタイを緩め、シャツの首もとのボタンを二つ外す。拘束が外れたような気持ちになった彼女は足取り軽く、廃工場の入り口へと向かって行った。