「……え?」
 有栖の発言は沈黙を生み出し、それが場を支配したのは右京と一色楓が理解する為の時間でもあった。だが、実際は理解は出来ず、驚いた上で、右京は一言呟き、一色楓は黙って有栖の方を見ていた。
「でも、それなら尚更、変だ。結城さん達が捕まった話なんて聞いたことないし、カラーズが堂々と活動している意味が解らない」
 右京がたどたどしく、何とか自分の考えを言葉にする。
「そうね、その通り。だけど、それには二つの理由がある。一つは結城清治。彼が与党であるK党の幹部議員の息子だということ」
 有栖が人差し指を立てて、続ける。
「与党と警察は癒着に賄賂にずぶずぶの関係だから、父親の結城議員に警察は配慮、結城議員は警察に報酬を渡して自分の地位が危ぶまれる状況を避けてる」
 有栖は話しながら辟易した表情を見せる。如何にも嫌悪、という表情を隠すこともない。
「それだと、さっきの話と違いませんか? 捕まってると、見逃してもらってるじゃ全然意味が違う」
「そうね。だから、見逃してもらっているなんて言ってない。そりゃ、一回や二回ならもみ消すこともするでしょうけど、カラーズの違法ハーブの売買の頻度は看過できないレベルよ」
「じゃあ、捕まってるのが本当だとしても意味が解らないです」
「折衷案よ」
「折衷案?」
「警察はカラーズの行為を見逃し続けると問題になる。でも、結城議員には配慮をしたい。結城議員は息子が捕まると自分の地位が危ぶまれるから避けたい。そして、双方としてはユースにカラーズが捕まると、警察は面子が潰されるし、結城議員は辞職に追い込まれる。これが一番のバッドエンド――まぁ、こっちの組織としてはハッピーエンドだけど」
 この背景があるから、ユースティティアは躍起になってカラーズを捕まえようとしていた。そして、今、あともう一歩のところまできているからこそ、彼女の組織は忙しくなっているのだ。
 ――これまでも同様にあと少し、というところまできてはいたけど捕まえることができなかった。
 奉日本は有栖が言わなかった補足情報を心の中で呟く。そして、それが出来なかった折衷案、というのも知っていた。
 最悪で最低の愚策だ。
「そのバッドエンドを避ける為に、行われてきたのがカラーズが派手に動いて問題になったとき――カラーズの一人を捕まえる、ということ」
 有栖はそう言って、胸ポケットから複数枚の写真を取り出し、テーブルに広げた。
「それは過去に捕まったカラーズのメンバーよ」
 右京は有栖の話を聞き、テーブルの写真を見て言葉を失った。
 写真には年齢の近い青年が数人映っている。そんな彼等には共通点が一つ――髪が緑色だった。