「今回の件は、キミが知っていることもあるけど、キミの知らないことも多くある。まぁ、それなりに複雑でムカつくことが起きてる」
 有栖は少しだけ顔をしかめると、スマホをテーブルの上に置いて真っ直ぐに右京を見た。その表情は真剣で同席の二人も今から重要な話をされることを察してか、姿勢を正した。
「右京くん……キミは警察に自首しようとしていた。これは合ってる?」
 その発言を聞いて、右京は一色楓を一瞥した。その視線を受けた彼女は首を横に振る。話したのかどうかを尋ねるアイコンタクトが交わされたのは明らかだったが、彼女の回答を素直に受け止めたところを見ると彼も相手のことを信頼しているのがよく解る。
 右京は一度だけ強く目を瞑り、
「はい、その通りです」
 そう答えた。僅かな時間だったが、その間に決心をしたのだろう。いや、もう彼なりに追い詰められていて、縋り付きたい、助けてほしい、といった感情が既に臨界点まで達していたのかもしれない。
「そっか……」
 それを聞いて、有栖は大きく息を吐いた。それは安堵から自然に漏れたものであった。
 ――彼が自首していたらアウトでしたからね。
 奉日本は有栖の安堵の意味を理解し、そう思う。もちろん、彼の表情に一切の変化はない。
「ギリギリセーフ。まだ、自首しなくて良かったわよ、本当に」
「どういう意味ですか?」
「キミは助かるチャンスがあるってこと。そんで、巨悪を潰すチャンスが生まれたってこと」
 有栖はそう言って不敵に笑う。
「じゃあ、確認とキミの知らない情報を補足するから、自首しようとした経緯を教えてくれる?」