「自分がキミに気づいたのは、この写真のおかげなの」
 そう言って、有栖はスマホの画面を右京に見せた。奉日本は一色楓にオレンジジュースを、他の二人にはアイスコーヒーを出し終えてカウンターに戻る最中だったが、彼女が見せている写真が以前、猫探しのときに見せてもらった一色楓と黒猫が映っているものだと想像できた。そして、有栖が気づいたことは、最初に彼が見せてもらったときに気づいたことでもあった。
「これ、撮ったのキミでしょ?」
「え? そうだけど……なんで?」
「よく見たら、解る」
 右京は有栖が見せているスマホの画面に顔を近づけて首を右、左、と傾けては目を細めたり、見開いたり……そして、
「解んないです」
 顔を離して、ため息を一つ。右京は諦めたことを意思表示するかのようにアイスコーヒーに刺さっているストローをくわえる。
「ステンレスボウル」
「へ?」
「ほら、テーブルの上にあるお菓子づくりに使うステンレスボウル。そこに写真を撮ってるキミが映ってるのよ」
 有栖がその部分を拡大して、再び、右京に見せる。彼もまた顔を近づける。
「あ、本当だ。確かに……」
「まぁ、顔がしっかり認識できるわけじゃないけどね」
 ステンレスボウルには確かに右京の姿が映っていた。しかし、それは銀色の曲面の影響で形は歪み、顔立ちの特定などは不可能に近い。それでも、確実に認識できる箇所があった。それが、彼の髪色だった。緑色の髪だけは見間違うことなく認識可能だったのだ。
「ここに楓ちゃんが彼氏と来ている情報があったから、その彼氏の髪色を聞いたあと、楓ちゃんに直接話を聞いた。まぁ、的外れの可能性もあったけど、結果はビンゴ。それで、この場を設けたってわけ」
 一色楓の彼氏の髪色を聞かれたのは、他でもなく奉日本だ。そして、それを聞かれたことで彼は彼女が一つの考えにたどり着いたことを察した。
 そして、この場を貸してほしい、という有栖の要望も快く了承して、現在に至る。
「ということは、有栖さんは俺が何に所属しているか知ってるんだ?」
「えぇ、違法ハーブのバイヤーチームの一員――」
「うん、そう……」
 右京は表情に陰りを見せながら、頷くが、
「のようになってるけど、本当は違う。そうでしょ?」
 それを戸惑いに変えてしまうほどに、有栖は白い歯を見せて、笑ってみせた。