「駄目だぁ」
 そう言って、有栖はカウンター席のテーブルに身体を溶かすように預けた。
「猫探しが難航してるんですか?」
「うん。あ、今日のランチと食後にコーヒーを一つ」
「はい、かしこまりました」
 高本は注文を受けると笑顔を見せてから準備を始める。今日のランチはハヤシライスとシーザーサラダだったので普段のランチより早く、そして、簡単に準備ができるのだろう。彼が注文を受けてからの動きもゆっくりで、会話できる余裕もありそうだった。
「自分、ハヤシライスってそんなに食べないんだよね。カレーがあれば迷わず、そっち選ぶ」
「そうですね、そういう人が多いです。でも、たまに食べたくなるんですよ。ここでも提供は不定期ですが、出すと人気ありますよ」
「へぇ……」
 そういえばカレー専門店はあるけど、ハヤシライス専門店は見かけないな、とそんなことを考えていると有栖の前に本日のランチが差し出された。
「いただきます」
 そう言ってハヤシライスを一口頬張る。デミグラスソースの芳醇な香りと味が口の中に広がると自然と次の手が進む。時々、一緒に味わえるマッシュルームが良いアクセントになっていた。
「美味しい」
「どうも。猫探しの疲れが少しでも癒やされれば幸いです」
「うん、癒やされる。また、猫を探す活力が出てくる――って言いたいけど、この活力は事務仕事に使われるのよ」
「あれ? 猫探しに集中しているのかと」
「それが、最近事務仕事が多いのよ。なんか周囲が慌ただしく移動しまくって、出張処理とか報告書の整理とか、かなり増えてる」
「それは大変そうですね」
「普段はそんなことないんだけどね……やっぱり、探しているのが黒猫だからかな?」
「どういうことですか?」
 溜め息交じりにそう言った有栖に対して、高本は食器を拭きながら首を傾げた。