「父さん、今なんと言って.....」

今、父はよく分からないことを言った気がする。
私の気のせいだと信じたい。

「ああ、PIPUと一緒に暮らしてほしいと言った。学校に行っている時間は仕方ない。が、それ以外の家にいる時間帯は
片時も離すことなく、PIPUと一緒にいてもらう。分かったか?」

「あ.....。は、はい」

ああ、YESと答えてしまった。
いや、それしか選択肢が無かったが.....。

ここで私にとっての一番の不都合は、『私のプライベート時間が消える』ことだ。
父のことだ、そのAIに監視目的でもカメラを搭載している可能性がある。
もし、そうだとしたら私の推し活が泡として消える。

父は私の反応に満足そうに答えていた。
当の私ときたら、内心汗ダラダラな状態だが。

「私はまだ仕事が残っているから、後はこの部屋で過ごしておくように」

そう父は言うと、部屋を後にしてドアを閉めた。
残るは私と.....人工知能AI。

「あの.....PIPUさん?」

「はい。菊音さん、少しの間よろしくお願いします」

そう透き通った声でPIPUは答えた。
父はこの部屋を後にした、つまりこのAIに質問するとしたら今しかない。

「PIPUさん、私の質問に答えてもらっていいですか?」

「はい、どうぞ。私は菊音さんと会話ができることを嬉しく思います」

「それじゃあ早速だけど、PIPUにはカメラが搭載していたりしない?私を監視する目的で作られているんじゃないの?」

直球で私はPIPUに聞く

「いいえ、それについては答えることが出来ません。私の思考・会話パターンはあなたの父親によって制限されています」

ああ.....なるほど。
搭載されているのね。
わざわざ隠すということは.....そういうことか。

「すみません、ご期待に添える形ではないことに」

「別にいいよ。それより久しぶりに与えられた自由時間だ。将棋でもして遊ぼう」

はあ.....まあ別に良いか。
そんなことより、今は将棋でもして遊ぶか。
正直言ってこのAIがどれだけの知能を有しているのか非常に気になる。

ま、どうせそこまでは強くないでしょう。
もし、高い知能を有しているのなら私に渡すわけないしね。

「将棋ですか.....。私は苦手なイメージがあります。ですが.....」

「全力で打たせていただきます」

「望むところ」

軽い気持ちで私は将棋を始めた

_________________________________________________________

「.....っ!!」

将棋を始めてから10分後、白黒決まった。
その結果は散々たるものだった。
結果は惨敗。
こめかみが動いているのが分かる。

「な.....なんで?」

「私の勝ちですね。機械の私でも嬉しいという気持ちが体の隅々まで響き渡っています」

最初こそは優勢だった。
私がAIを圧倒していた。
打つ手打つ手が悪手で、簡単に裏を取れた。

だが、中盤に差し掛かってからの成長は目覚ましかった。

私の思考を読み、嫌がらせを繰り返す。
いや、読むことは不可能だが。
そう思わせるほど一手一手が重かった。

「菊音さん、対戦ありがとうございます」

人工知能AI,通称PIPU。
もしかしたら、これはとんでもない力を秘めているんじゃないか。
どんどん感情が豊かになってくるAIを見て私はそう感じた。