「.....あった」
PIPU.....を見つけた。
やっぱりこの研究所にあったんだ。
父の極秘の研究所にあると踏んで、侵入してみたところ。
案の定、正解だった。
電車を降りて、山を登り、隠れるように草木の先に立っているのがこの研究所。
バレないつもりなのか、その研究所には4~5人くらいしか出入りしていなかった。
人の目を盗み、私は研究所へ入った。
そして.....PIPUを見つけた。
入ってから直ぐに左の部屋にてPIPUは立っていた。
「はあ.....はあ.....」
鼓動が止まらない。
部屋には誰もいなく、入るには絶好のチャンスだが。
その部屋にいるのはPIPUだったが、PIPUのようではなかったからだ。
雰囲気が全然違う。
今は冷徹な人間という感じだ。
「.....やるか」
でも、入るしかない。
私の記憶を消されているかもしれない。
だけど、私はPIPUと会いたい。
「今、会いに行くよ。PIPU」
ガチャ
「PIPU!!」
やっぱり、PIPUだ。
ドアを開けた先にいたのは、私の親友PIPUだ。
その可憐な姿は私の知っている姿であった。
だが、冷酷な表情を浮かべている。
今までは私を見つけたら笑顔で寄ってきた。
だけど、今相対してみてもPIPUはこちらを呆然と見つめるばかり。
「PIPU!私だよ、菊音だよ」
「.....」
あれ.....反応がない。
無言だ。
いや、違う。
無反応ではない。
私に向けられる視線、それは明らかな敵視であった。
「誰ですか?この研究所の方の関係者の方ですか?マイナンバーを見せてください」
警戒がどんどん強くなっている感じがする。
「あ.....いや、関係者って訳じゃないけど。でも、この研究所の所長の娘なんだ」
「娘.....?」
「東三七 菊音っていう名前なの」
「菊.....音.....?____知らない」
知らない。
そうは言いつつも、PIPUは頭を抱えてる。
苦しそう。
多分、これ私の名前を出したからだよね。
このまま、話していいんだろうか。
いや、私は今日PIPUを助けに来たんだ。
話そう、私が親友だったことを。
そして、その後は二人で一緒に家に帰ろう。
「私は.....あなたの親友、東三七 菊音。あなたを助けに来たよ」
「え.....」
「覚えてる?二人で料理したよね。二人でアイドルの配信を見たよね。PIPUは忘れてるかもしれないけど、私は覚えてる。
最後にあった日にPIPU、私に告白してくれたよね。私嬉しかった」
「もう一度二人でやり直そう。二人で家に帰ろう」
「そして.....私の.....」
パチン!
今、PIPUに叩かれた。
それも思いっ切り。
「私、あなたのこと知らない」
「.....!」
「侵入者は排除する。それが私の仕事.....」
「菊音という方はご存じありません。今は主人からこの研究所の中身を外に持ち込むなという命令が出ています」
「そんな.....」
もう、私の知っているPIPUに戻すことは難しいのかな。
その冷徹な言葉を聞いてそう私は思った。
「無関係者は.....排除します!」
シュンッ
「いっ.....!」
い、痛い.....。
今、腰に常備されてた包丁を取り出して私を斬りかかってきた!
反射神経で避けたが、手の皮が切れた。
もう、PIPUの心は以前の姿じゃない。
感情はある。
だけど、その姿は言いつけられた命令を淡々とこなす無機質な人間だ。
「や、やばっ.....」
そして、今この場において私は処刑する対象。
に、逃げなきゃ。
「うわあああああああああああああ!!!!!」
「侵入者は逃がしません」
ど、どうしよう。
PIPUと会えたのに、私PIPUを避けてる。
でも、今立ち止まったら殺されるし。
「逃がさない!」
「っ.....!」
あ.....。
その言葉を聞いて、何かこみあげてくるものがある。
今まで親友だと思っていた人から殺しにかかるなんて、こんな悲しいことはあるのかな。
でも.....どうせこれ以上生きていた所で楽しいことなんてあるのだろうか。
私が唯一気が許せると思っていた人はもういなくなった。
なら、後は.....両親の思い通りに使われる未来が残っている。
それなら.....今立ち止まって死んだほうがいいのかもしれない。
どうせ、人間は最後には死ぬ。
なら、最後は好きな人を見て死にたい。
「いいよ.....。私の命あげる」
大丈夫。
痛みは一瞬、後はこの世界からおさらばできる。
「PIPU.....最後に見るのが、、あなたでよかった」
「うん.....?」
痛みを感じない。
なんで?
「菊音.....さん!こんな所で何してるの.....?」
「え.....」
死んだと思った。
だが、痛みを感じなかった。
不思議に思って目を開けた。
その先に広がっていたのは同級生が私を囲む景色であった。
「なんで.....」
「電車で偶然会長を見かけてついてきたんだけど。刺されそうになってる様子が見えて、居ても立っても居られなくて
駆けつけてきたの」
「あ.....」
後ろには同級生たちによって取り押さえられているPIPUの姿があった。
「表彰式の後、菊音さん私たちに向かって『うるさい』って言ったよね。最初は困惑したけど、でもそれも何か事情が
あってのことよね」
「俺たち、会長に重荷を負わせてたかもしれないな.....」
「会長の気持ちに気付いてあげれなくて、ごめん.....」
「みんな.....」
私は一人だと思っていた。
頼れる人は自分だけだと思っていた。
だけど、それは違った。
私は一人じゃない。
私は勘違いしていたのかもしれない。
一人で背負いすぎていたのかもしれない。
今なら言える。
私の気持ち。
「私のこと、話してもいい.....?」
「うん!」
「俺らのことを頼ってくれ」
「私たちは仲間なんだから」
「じゃあ.....話すね。私、なりたいものがあるんだ______」
「.....」
話した.....。
全部。
私の将来の夢、両親のこと、PIPUとの生活、父の目的、この研究所の意図。
全て話した。
こんなにスッキリした気持ちになったのはいつぶりだろう。
「それじゃあ、あのCMでよく出てくるロボットっていうのは.....」
「私の親友なの」
「酷い.....」
「人間のやることじゃない.....」
こんなに気分が晴れやかになったのは何年ぶりだろう。
プルルルルルルルルル
うん.....?
この音の正体は一体何だろう。
通知とも違う、この独特な。
気分を不快にさせるような、耳に残るようなこの音は。
しかも、一つの機会から鳴っているわけではない。
全員が持っているスマホからその音が鳴っている。
「皆、スマホをひらいて!」
【緊急通知】
我々日本国は感情を持つ軍事ロボット、NAMBERを完成しました。
これより、今から日本国は全ての国に対して宣戦布告します。
軍事ロボットを使い各国に侵略します。
国会は死にました。
これより、我々統制党が仕切る独裁国家へと生まれ変わります。
日本国民の皆さんは速やかに県の指示に従ってください。
「なにこれ.....」
これは一体。
スマホの画面を見たら、こんな通知が流れてきた。
フェイクだと疑いたくなるような内容の。
だが、その発信元が正式な政府のアカウントだと気付いたときは事の重大さがようやく理解できた。
「皆、ニュースや動画サイト見て。大変なことになってる!」
ニュースの一番は『我が国、他国に宣戦布告』という記事が。
動画サイトでは政府が他国へ侵略する旨を伝えている。
今、何がどうなってるんだ.....。
「ギギギギギ.....。主人よりA地点へ集合という命令を承りました。今から、速やかに移動します」
まずい。
急にPIPUが動き始めた。
今すぐに何とかしないと、PIPUはどこかへ行ってしまいそうだ。
十人がかりで押さえつけているのに、PIPUは押し返している。
「会長!どうしましょう、急にPIPUが動き始めてます!」
「落ち着いて!」
軍事ロボットはPIPUがベースになっている。
だから、PIPUの洗脳を解けば.....ロボットの暴走を止められるかもしれない。
私たちで戦争を止められるかもしれない。
PIPUの洗脳を解くには。
一つだけ方法がある。
それは、私一人だけではできない。
皆の力が必要だ。
以前の私なら逃げだしていたかもしれない。
自分で抱え込んでいたかもしれない。
だけど、今は違う。
私には頼れる仲間がいる。
「皆.....今度は私が皆を頼ってもいい」
「勿論!」
「.....!」
「俺らをは仲間だ。だから、会長は仲間に頼ってください」
「ありがとう.....」
「じゃあ、半数は町の人たちにロボットの事実を伝えて。残りの半数はここに残って.....私を手伝って欲しい」
「お願いできる.....?」
「はい!」
「ありがとう!」
PIPUの洗脳を解かせるには.....一つだけ方法がある。
それは.....私たちが過ごしてきた時間をもう一度戻す。
即ち、私たちがよく食べていたラーメンを作る。
そして、PIPUに食べさせる。
それが、私にできること。
半数は町の人たちにこの事を伝えに言った。
もう半数でPIPUの洗脳を解く。
「皆、初期配置について!」
「了解!」
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完成品を見て、自分ながら何をやってるんだと思ってしまう。
戦争が始まったというのに、慌てずにラーメンを作っているんだから。
「できた.....」
「PIPU.....食べて」
PIPUが好きだと言ってくれたラーメン。
PIPUと会った初日に食べたラーメン。
それを.....今食べさせる。
「ぐぅぅぅぅ.....。は、離せ!」
暴れてる。
けど、大勢で取り押さえられてて何とかPIPUは拘束されている状態にある。
「PIPU.....。思い出して.....!」
「っ.....。!」
私はPIPUの口に作ったラーメンを入れた。
「ぐ.....。うぅ.....」
「PIPU、聞いて.....」
効果があるか分からない。
だけど、少しだけPIPUの力が弱くなった気がする。
「PIPUが私の家に来た時、私嬉しかった。純粋な話し相手が出来て。初めて気の許せる友達が出来た」
「.....」
「だから、一つ言わせて。ありがとう」
「そして.....これからも私と一緒にいてくれますか?」
「ピ.....ピピ.....。菊音.....」
「.....!PIPU」
今、一瞬私の名前を言った。
気のせいじゃない。
今、確実に私の名前を言った。
「.....菊音の声、私の心の届いたよ」
「PIPU.....良かった、戻ってきてくれて」
「菊音も.....。私を見つけ出してくれて、ありがとう.....」
「うん!!」
ここはとある会議室。
その会議室には政府の重要役人で占められていた。
各国に宣戦布告してから数時間が経過。
彼らはその戦争をどのようにして勝利するか白熱した議論が行われていた。
「東三七 士野さん。まずは、研究が成功しておめでとうございます」
「ありがとうございます。財務長。長年私が研究していたものが今年でようやく成功し、嬉しい限りです」
そう、高価な服装で包み、髭を生やした男は言った。
その男の名は東三七 士野。
菊音の父親だった。
彼もまたこの会議の参加者であった。
「さて.....道井くん。前線で戦っているAIの様子はどうなっているんだ?」
「はい!ただ今のところ.....。えっ!?」
「どうした?道井くん」
士野のマネージャーと思わしき男は謎の媒体を見て声を上げた
「そ、それが.....次々に戦闘を停止し、撤退していっています」
「な.....なんだと!」
「どういうことだ!?」
「人工知能には特殊な機械を埋めて、我々に忠実ではなかったのか!?」
その男の発言により、政府の役人は資料をめくる手の動きを止めた。
そして、その男に詰め寄った。
「.....洗脳している反応が消えています」
「なっ.....。なぜ.....。そのAIを動かしている機械を操っているのは我々以外いないはずだぞ。裏切者が出ない限り
命令に逆らうというのは不可能なはずだ!」
「いえ、この反応は.....PIPUからの操作です。恐らく、PIPUがAIたちの洗脳を解いたのだと思います」
「なっ.....。なに!?」
バン!
その瞬間、その会議室のドアが勢いよく開け放たれた。
「お父さん、もう止めて!」
ドアを乱暴に開けたその人は臆することなく会議室へ入り、士野に向けてそう言った。
その女は士野にそっくりな顔であった。
東三七 菊音。
そう、その会議室に入ってきたのは士野の娘であった。
「なぜ.....お前が。いや、AIの洗脳を解いたのは.....菊音か!?」
「うん。正解」
父の鬼気迫った質問に菊音はさらりと答えた。
「PIPUの洗脳を解いて、そしてPIPUが他のAIの洗脳を解かせたんだよね」
「な.....」
「どうやって洗脳を解いたかは知らんが。なぜ、こんなことをやったんだ?黙ってれば、皆から表彰されて。
そして、私の会社を継いでたんだぞ。菊音には、お金に困らない人生が待っていたんだぞ。それを.....なぜ棒に振る.....」
「うるせえよ.....」
「え.....?」
「うるせえって言ったんだよ。私は会社を継ぐ気はない。私は自分のラーメンの支店を作る。それが私の夢だ!」
「私は自由だ、誰にも縛られることがない。私は.....私だ、お前らが作った完璧な娘じゃない。私だ!」
「あ.....」
衝撃の発言の数々に父の呼吸は止まった。
「そして、今すぐにこの戦争を止めろ!お前らがやったことは全部市民に話してある」
「なっ.....」
「士野さん!!この建物の外に大群衆が出来ています。そして、SNSでは政府への批判で盛り上がっています!」
そう、窓の外を見て誰かが言った。
その通り、外には大群衆が建物を囲んでいる光景がある。
プラカードを掲げて、戦争を止めろというコールが飛んでいる。
「もう既に民間との間で各国と講和が進んでいます」
「ぬ.....ぬぬぬぬぬぬ.....」
「父、いや士野。私は私の人生を歩む。お前に操る権利はない」
「ぐ.....」
カチャ
口論の中、そんな金属が擦りあう音が響いた。
その直後、誰かが腰から銃を取り出し菊音にその銃口を向けた。
「死ね、菊音!」
「あ.....」
菊音はすぐさま、その方へ向けたが間に合わなかった。
銃から放たれたその弾は空間を貫き、真っすぐに菊音の方へ向かう。
「菊音!」
その弾は菊音の体を貫くかと思われた。
だが、その1秒後。
弾はPIPUの体を貫いた!
「PIPU!」
PIPUが菊音の前に出て、身代わりになったのだ。
「菊音.....」
「動かないで!今、止血するから」
菊音はすぐさま、彼女の元へ駆けよった。
貫かれた部分を抑える。
だが、悲しくもそこからは激しく油が出るばかりであった。
「菊音.....私も死ぬみたい」
「え.....」
「だから、最後に少しだけ言わせて」
「私、菊音の家に来て良かった」
「私達、いつまでも恋人だよ」
「PIPU!」
彼女の声もむなしく。
PIPUの目からは光が無くなり、黒く染まっていく。
それと同時にほんのりとした温かみは徐々に消えて、冷たくなっていった。
「PIPU.....」
_________________________________________________________
20XX年
東三七 菊音。
彼女はある大学へ進学した。
その大学は料理を専門とする大学。
その大学は菊音が行きたがっていたが、両親が反対していた大学だった。
だが、彼女は今日その大学の門をくぐる。
それと同時に彼女はその大学から漂う料理の数々の香りを堪能した。
「ふう.....」
それと同時にこれまでどれだけ苦労してきたか振り返った。
あの後、父は逮捕され、母はおかしくなり精神病院に移動。
彼女は一人身となった。
だが、政府の援助もあい彼女は復活。
「.....良い天気」
そう彼女は青く晴れ渡った空を見上げて言った。
もう、自分には両親がいない。
縛り付けていた存在がいなくなった。
だが、彼女は恐れることを知らなかった。
彼女には友達がいる。
PIPUは死んだが、本当の自分を知った友達がいる。
「.....」
彼女はとある写真を取り出した。
それは、アイドルのポスターとの写真。
その写真にはもう一人誰かが写っていた。
前までは一人で撮っていた。
だが、その写真にはオタク仲間が写っている。
その自分の満面とした笑みを見て、こう菊音は思った。
少しだけ息がしやすくなった気がした。