「菊音という方はご存じありません。今は主人からこの研究所の中身を外に持ち込むなという命令が出ています」

「そんな.....」

もう、私の知っているPIPUに戻すことは難しいのかな。
その冷徹な言葉を聞いてそう私は思った。

「無関係者は.....排除します!」

シュンッ

「いっ.....!」

い、痛い.....。
今、腰に常備されてた包丁を取り出して私を斬りかかってきた!
反射神経で避けたが、手の皮が切れた。

もう、PIPUの心は以前の姿じゃない。
感情はある。
だけど、その姿は言いつけられた命令を淡々とこなす無機質な人間だ。

「や、やばっ.....」

そして、今この場において私は処刑する対象。

に、逃げなきゃ。

「うわあああああああああああああ!!!!!」

「侵入者は逃がしません」

ど、どうしよう。
PIPUと会えたのに、私PIPUを避けてる。

でも、今立ち止まったら殺されるし。

「逃がさない!」

「っ.....!」

あ.....。
その言葉を聞いて、何かこみあげてくるものがある。
今まで親友だと思っていた人から殺しにかかるなんて、こんな悲しいことはあるのかな。



でも.....どうせこれ以上生きていた所で楽しいことなんてあるのだろうか。
私が唯一気が許せると思っていた人はもういなくなった。
なら、後は.....両親の思い通りに使われる未来が残っている。

それなら.....今立ち止まって死んだほうがいいのかもしれない。

どうせ、人間は最後には死ぬ。
なら、最後は好きな人を見て死にたい。

「いいよ.....。私の命あげる」

大丈夫。
痛みは一瞬、後はこの世界からおさらばできる。

「PIPU.....最後に見るのが、、あなたでよかった」






「うん.....?」

痛みを感じない。
なんで?

「菊音.....さん!こんな所で何してるの.....?」

「え.....」

死んだと思った。
だが、痛みを感じなかった。
不思議に思って目を開けた。

その先に広がっていたのは同級生が私を囲む景色であった。

「なんで.....」

「電車で偶然会長を見かけてついてきたんだけど。刺されそうになってる様子が見えて、居ても立っても居られなくて
駆けつけてきたの」

「あ.....」

後ろには同級生たちによって取り押さえられているPIPUの姿があった。

「表彰式の後、菊音さん私たちに向かって『うるさい』って言ったよね。最初は困惑したけど、でもそれも何か事情が
あってのことよね」

「俺たち、会長に重荷を負わせてたかもしれないな.....」

「会長の気持ちに気付いてあげれなくて、ごめん.....」

「みんな.....」

私は一人だと思っていた。
頼れる人は自分だけだと思っていた。
だけど、それは違った。

私は一人じゃない。

私は勘違いしていたのかもしれない。
一人で背負いすぎていたのかもしれない。

今なら言える。
私の気持ち。

「私のこと、話してもいい.....?」

「うん!」

「俺らのことを頼ってくれ」

「私たちは仲間なんだから」

「じゃあ.....話すね。私、なりたいものがあるんだ______」