AIに感情を入れてみようと思う

ガタ

ガタ

ガタ

小刻みに揺れている。
振動が心地よい。
今の私の辛い気持ちを癒してくれる。
一人で考えるにはちょうどいい空間だ。

周りに人がいる所が玉に瑕だが。

私は今、電車に乗っている。
電車に乗ること自体、初めてではないが。
私の意志で電車に乗ったことは初めてだ。

今までは両親から命令されて物事を決めていた。
だけど、今日は両親の意志に逆らって電車に乗った。

窓から次々と景色が変わる。
町、都会、田舎。
森、川、平野。

光景が入れ替わっていく。

「.....」

「就職するなら株式東開発会社!!」

「今話題の人工知能AIに携われることができます。平均年収は1000万円。就職するなら東開発会社!」

CMか。
どういう因果かは知らないが、電車の中で私の父が経営している会社が宣伝された。

東開発会社.....。
何度も何度も、耳にタコができるくらい聞いた会社名だ。
父が私に継がせたかっていた会社。

表では父の会社は評判がいいらしい。
乗客たちの目線が一斉に広告に向かう。

「ご覧ください。東開発会社のAIを。このAIはPIPUと言い、感情を持っているそうです」

え.....。
聞き間違いじゃないのか?
今、PIPUって声が聞こえた気がするが。

「!」

いや、聞き間違いじゃなかった。
皆の目線の先には、ある動画があった。
一見、人間が車や金属など様々なものを破壊している動画。
だが、それは人間ではない、AIだ。

見ただけで分かった、それがPIPUであることに。

だが、私の知っているPIPUではない。
冷徹で恐ろしい。
その動作一つ一つには感情がこもっている。
が、凍えるような雰囲気を醸し出している。

その動画に映っているのは正直で明るいPIPUではない。
言い表すなら殺戮兵器。
ここまでなるのにどれだけ開発されたのか。

「っ.....!」

見てられない。
早く、研究所に行きたい。
入れるかは分かんない。
だが、やってみるしかない。

PIPUに会って、そして家に帰るんだ。
そして、アイドルの配信を見る。

それが、私の目的。