私は自分に怯えながら、始業式を迎えた。年に数度ある席替えで、またもや沢海君と隣になった。一体どうやったら五度も同じ人と隣になるのか、……ホントに、不思議だ。
 あと十三日。
 そして、今日を入れて残り十一日間彼の隣で過ごすのか……。
 五度も隣になった人間に聞いてみたかった。自分にどれくらい価値があるのか。だから、一日ひとつ、金曜日は三つ沢海君に問うた。計十三問の問いを。
「これから一日一問、金曜日は二問か三問、計十三問の質問を君にするけど、答えてくれる?」
「質問によるな」 
 羅月さん曰くこいつは無口なのだが、沢海君は結構喋る。 
 ちなみに以下が私のした質問と沢海君の解答である。
「一つ目、君は死にたいと思ったことはある?」
「ああ、しょっちゅう思う」
「二つ目、君は自傷行為をしたことある?」
「ない」
「三つ目、自殺経験は?」
「ないに決まっている」
「四つ目、知り合いの誰かが自殺したら、君はどう思う?」
 彼は私の異変に気付いたのかもしれない。けれど、どうでもよかった。彼は信用できるから。いろいろな意味で。
「どうしてお前はそんなことを聞く?」
「さあ?」
 彼はそれから何も聞かずにただ私の問いに答えてくれた。
「そいつは、苦しかったんだなあって。自殺自体は悪いとは思わないよ」
「五つ目、クラスメイトの誰かが死んだら涙を流す?」
「分からん。ていうか、人のために流す涙なんて無駄だと思っているから、流さないと思うぞ」
「ふうん。君、意外と薄情だね。六つ目、君は、私についてどう思う?」
「いつもは猫被っている学級委員で成績優秀だけど、本当は弱虫で泣き虫。んで、少し腹黒」
 沢海君の言葉は、私の中枢に迫っているような気がした。彼なら、本当の私を見つけてくれるかもしれない、と思えた。でも、強気で言い返す。いつかの、月原先生との会話のように。
「君はひどいね、そんな風に思っているなんて。君だって無口男子という仮面を被っているくせにさ。本当は饒舌で毒舌なのに。みんな君に騙されているよ」
「本当のことだろう、お前が猫を被っていることなんて。それに俺は仮面など被ってはいない。これが本性だ」
「いったいどの口が言っているのかね?七つ目、君と私の関係は?」
「……。クラスメイト」
「ただのクラスメイトだったら五回も席前後左右にならないよ」
「じゃ、お前はどう思ってんの」
「クラスメイト以上親友未満」
「友達とは思ってくれているわけ?」
「一応」
 友達、不思議な響きだ。羅月との関係を友達と括るのはあれだけ抵抗があったくせに、沢海君との関係は、普通にこの言葉で表せられる。なんだか、違うような気もするけれど。
「じゃあ次八つ目、君は軽々しく死にたいと言っている人についてどう思う?」
「軽蔑する」
「九つ目。君はなぜ仮面を被っているの?」
 返ってきたのは、沈黙。検討は大体ついていたが、きっと答えたくないのだろう。
「お前は何でそんなことを聞くんだ?」
「知りたいからなのと……、ていうか今自分で仮面を被っていることを認めたね」
 そう、知りたいから。明日は最終日だ。私の人生の。いくら明日、死ぬとしても、沢海君のことはなぜか知りたかった。
「答えられないな。お前が猫被っている理由を教えてくれるのなら考えてもいいが」
 それはイコール私の感情を沢海君に教えることだった。いくら彼に泣き顔を晒したという過去があるのだとしても。
「答えられないだろ。そりゃあそうだよな。てわけで、また明日な」
「あと一つ、質問していい?」
「ああ」
「君は……死にたいのに、どうして死なないの?」
「は?」
「あ、やっぱ何でもない。忘れて。ごめんそれじゃあ、また明日」
 また明日、その言葉を使えるのは今日で最後だ。何気なく放っていた言葉の最期というのはなかなかのものである。
「また、明日ね。沢海……繋クン」
 夕日が反射する校門で、彼は振り向いたが、そんなことは無視して帰路を辿った。
 あと、二十時間。